コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
食事会から帰路に着き、エリィ達と別れてからは部屋に戻り、今日の残りの時間は読書に費やすことにした。
勿論、トーマスの用意してくれる夕食はしっかりといただく。ただ、本の内容が気になるので、今日はハン・バガーセットを3セット注文するだけにしたが。
読書中に今更ながら人間達が信仰している神々、つまりルグナツァリオやその同僚達について知ることができたのだ。
人間達が信仰しているのは全部で5柱。彼等は五大神と呼ばれ信仰されている。
彼等はそれぞれ天空神、深海神、地母神、煌命神、そして導魂神の肩書きで呼ばれている。
天空神。言わずと知れたルグナツァリオの事だ。ただし本人が言っていたように人間達からは龍の姿では無く、人の姿として人々には知れ渡っている。
常に空に存在し、人々を見守り続けているため、善良な者への苦境を救い、人間達の歴史の中で神罰を実行する存在だとも伝わっている。
要するに[どんな時、どんな所でも天空神様が見ているから、悪いことをしたらすぐに分かるし、あまりにも酷いようなら懲らしめるぞ。その代わり、良いことをしたら苦しい時には助けてくれるぞ。だからどんな時でも善良でありなさい]と言った感じの教えが広がっている。
そのため、人間達からは最も慕われていると同時に最も恐れられている神でもある。
まぁ、神罰を実行する存在であり、実際にその神罰で国どころか大陸全土が滅んだことがあるらしいからな。人間達ではどうしようもない存在だろう。恐れられるのは当然だな。
人間達のルグナツァリオに対する認識は大体本人のそれと一致するな。ただ、随分と人間達の都合の良いように解釈はされているが。先程の教えがいい例だろう。
まぁ、そんな教義のおかげで信仰の厚い土地では治安が良いらしいのだ。悪いことでは無いだろう。
尤も、そんな教えが人間達の間で広く布教されていても悪事を働く者は絶えず存在している。
ルグナツァリオは人間達だけの神では無いからな。そもそも彼が罰する対象は種族単位で多くの命を奪う者に対して執行されるようだ。不正を働くだとか、個人を殺めると言った規模では動くことは無いだろう。
私が直接話をした感じでは、そういった悪事もまた人の営みだと判断して見守っているように見えた。
そんなわけで、神罰が個人に向けられることなどほぼ無いと言って良いのだ。それを知ってか知らずか、神罰を恐れずに悪事を働く者は後を絶たないようだ。
そして本に載っていたルグナツァリオの姿絵を見た時に、この街に来た時に見た噴水の像の1つに既視感を覚えた理由が分かった。あの像は五大神を模った物だったのだ。
既視感を覚えた像は勿論、ルグナツァリオを模った物である。
端正な青年の顔立ちに長い金色の頭髪。水色を基調とした衣服を着て、足元と周囲に雲を纏わせている。
なかなかうまく擬人化できているのではないだろうか?ひょっとしてルグナツァリオがこの姿で人前に現れたことがあるのだろうか。
シンシア曰く直接自分達の意見を伝えることもあるぐらいだ。あり得る話だな。今度会った時に確認してみよう。
天空神の内容はこんなところか。
深海神。名はズウノシャディオン。海の最も深い場所に住んでいて、水を司る神と伝わっている。
水は人間だけでなく多くの命にとって生きていく上で大切な物質だ。そのためか恵みの神とも例えられている。
その名が示す通り、海の神とも言われていて、船を用いて海に出る全ての人々から強く信仰されている。船旅の安全や大漁を願い祈る者が多いようだ。
本に描かれた姿は、金色の三又槍を持った青い頭髪で濃い髭を生やした褐色肌の壮年男性として描かれている。服装は人間からすれば大胆な事に股間に布を一枚巻き付けているだけだ。非常に筋肉質な体型をしていて、その筋肉には何故か艶がある。深海にいるのに何故筋肉に艶が描かれているのだろう?
まぁ、あくまでこの本を記した人物が描いた内容だ。実際は人間の姿をしていないだろうし、気になるなら本人に聞いてみればいいだけのことだ。
本に記されている通り、本当にこの星で最も深い海に居るのであれば機会があれば行ってみるのも良いかもしれない。その時にはルグナツァリオに事前にズウノシャディオンに連絡を入れてもらおう。
地母神。名はダンタラ。生物の先祖を創ったとされる女神だ。大地の神としても信仰されていて、土や石、金属に至るまでもがダンタラによって創られたとすら言われている。
実際のところ、ルグナツァリオが言うには現在生きている生物の祖は、彼の同僚全員で行ったことらしいので、彼女だけの功では無いのだが。
神々は皆その事実を人間達に伝えるつもりは無いらしい。
そもそも、人間達は神々の言葉を正確に把握できているのだろうか?
本を読む限りでは特定の才能を持った者、巫覡《ふげき》が神からのお告げを聞いて人々にそれを広めているらしい。
だが、正直なところ人間達にルグナツァリオが使用していた『真言』を理解できるとは思えない。
おそらくだが、神々の意思は漠然としたものとして受け取ってそれを自分なりに解釈したうえで人々に伝えているのではないだろうか?
それならば、神々に纏わる話が私の知る内容とで齟齬《そご》があることにも納得がいく。
話がそれたが、ダンタラは地面に関係するすべてを司ると言われているため、この星の大地そのものだと言われて信仰されている神だ。当然、土にも関与するため農業の神としても信仰されている。
その姿は長い赤茶色の髪をした壮年の女性だ。黄色い肌に白を基調とした厚手のローブを着込んだ姿をしている。
そんな厚手のローブを着ていれば普通は体型など分からないものなのだが、本に描かれた彼女の胸部はそんなものは関係ないと言わんばかりに膨らんでいる。この大きさは間違いなくエネミネアよりも大きい。
彼女もまた本来の姿は人間では無い筈だが、この姿は果たして人間達の解釈によるものなのか、それともダンタラの意思によるものなのだろうか?少し興味があるな。
とは言えズウノシャディオンと違い、何処へ行けば彼女に会えるのかは分からないので本人に確認することができそうも無いのだが。
ルグナツァリオに聞いたら答えてくれるだろうか?
いや、こういった物は自分で見つけた方が達成感があるだろう。深刻な事態に陥っていて何としてもダンタラに会う必要、というような事態でも無いのだ。気長に探してみるとしよう。
煌命神。名はキュピレキュピヌ。命そのものを司る神だ。生物の祖を創ったダンタラと内容が被っているように思えるが、あくまでダンタラは創っただけである。
感覚的に言うのであれば、緑の魔力が影響を与える生命エネルギーの大元の存在とも言えるだろう。
怪我や病気の治療に加えて安産の際にも祈りをささげられている神だ。
司る内容が五大神の中で最も漠然とした内容のためか、人間達からも詳細はあまり知られていないようだ。
本に描かれた姿は半袖ハーフパンツ姿の緑髪をした緑の光を放っている少年だ。これまでの神々の表情が凛々しい表情なのに対してキュピレキュピヌの表情は、まさしく天真爛漫な少年と言った具合でとてもにこやかだ。この表情にはどのような意図があるのだろうか?
詳細が記載されていないため何処にいるのかも分からない。彼にはどうすれば会えるのだろう?
そうだ。巫覡は神々の言葉をお告げとして聞けるんだったな。私も神々のお告げを聞ければ、どこに行けば彼等と会えるのか教えてもらえるのではないだろうか?
そうなって来ると私がやるべきは、お告げを聞く方法の模索だな。
今のところ、この街の図書館にはその手の内容の本は確認できていない。王都の図書館で見つけられればいいのだが…。無理そうなら教会に勤めている巫覡にでも聞いてみるとしよう。
最後に導魂神。名はロマハ。その名の通り魂を導く女神である。
魔物を含めたすべての命には等しく魂が宿っている。命が尽きた時に肉体から魂が抜け、導魂神が魂を死後の世界へと導き、そこで生前の行動を清算されるとのことだ。
普段は死後の世界に住んでいるため、死を司る神とも言われている。
善行を積んだ者には褒美として安らかなひと時を与えた後に恵まれた来世を、悪行を積んだ者には罰として苦痛を与えた後に厳しい来世を迎えさせると伝わっている。
なお、来世を迎える際には誰であれ生前の記憶を抹消されるらしい。
多くの人間達が勧善懲悪を良しとするのは、ルグナツァリオの教えだけでなく、ロマハの教えもあるからだろう。
誰だって死んだ後にまで苦痛を背負いたくは無いだろうし、その後に待っているのが厳しい生活など望む筈が無いだろうからな。
人間達にとってはルグナツァリオが最も恐れられているそうだが、私から見た場合、ロマハの方がよっぽど恐ろしい神に見えるな。
ルグナツァリオが執行する天罰はおそらく短時間で終わるだろうが、ロマハが与える罰は間違いなく永く続くものとなる筈だからだ。
その姿は青白い肌に黒いワンピースを着たセミロングの黒髪をした若い女性だ。本に描かれた表情は全くの無表情をしていて感情が読み取れない。
そもそも、魂を導く神だと言うのであれば、彼女は人前に姿を見せるのだろうか?普段は死後の世界に住んでいるとのことだし、他の神々以上に姿を見る機会が無いんじゃないだろうか?
興味があるし、これも王都に着いたら調べてみるとしようか。
さて、それはそうと当たり前のように死後の世界と言う単語が出てきているわけだが、そもそもその死後の世界とやらは実在するのだろうか?
魂は何となくではあるが理解できている。私もドラゴンを始めとしたそれなりの数の魔物の命を奪ってきているからな。
命を終わらせた際に”何か”が肉体から抜けていく感覚が分かるのだ。おそらく、アレが魂なのだろう。
いつの間にか肉体から抜けて行ったその”何か”が感じ取れなくなっているのだが、まさか死後の世界へと行ってしまったから感じ取れなくなったのだろうか?
そうなると”蘇った不浄の死者《アンデッド》”というのは激しい未練や生への執着によって肉体から魂が抜けなかった者が黒色の魔力を得ることで発生すると考えて良いだろうな。アンデッドとなること、死した肉体に魂が居座り続けるのは、ロマハから見て罪深いことなのだろうか?その点も気になるところだな。
うん、死後の世界とやらへはどうやれば行けるかなどまるで思いつかないが、いつかは生きたまま訪れてみたいものだな。ロマハに会うことができたら是非とも相談してみよう。
だが、生きたまま死後の世界へと行くことが悪いことでありロマハの怒りを買うような行為であった場合は素直に諦めよう。
いやはや、ざっくりとルグナツァリオの同僚達を知ることができたが、1体とは言え本物と直接会話をしたことがあると他の神々にも会いたくなってしまうものだな。さぞ、面白い話が聞けるに違いない。
私が明確にやりたいことが見つかった気がする。うん、決めたぞ。
人間達の国は勿論、魔族の国、そして神々が住まう場所にも訪れてみよう!きっと、私ならばどこへだって往けるはずだ!そうして多くの知己を得よう。
それはきっと、巡り巡って私達、家の皆の生活をより良い物へと変えてくれるに違いない。俄然、やる気がわいてきた。
神々の情報が記された本を読み終わる頃には、12回目の鐘が鳴る頃だった。いつもならば寝ている時間だ。
やる気に満ちて少し興奮してしまっているが、果実を食べて布団に入れば私のことだ。直ぐに寝付いてしまうだろう。
果実を食べ終えて自分と衣服に『清浄《ピュアリッシング》』を施して布団へ入れば、そらみたことか。あっという間に私の意識はまどろんで眠りにつくこととなった。
……もしかしなくても、これ、私の弱点じゃないか?まぁ、いいか。寝ようとしている時に考えることじゃないし、さっさと寝よう…。
それからの2日間は本当にあっという間だった。
シンシアに起こされた後は午前は子供達に教会を案内してもらい神々への祈りの作法を教わったり、市場へ連れて行ってもらい家の皆へのお土産になりそうな食料の加工品や調味料を、結構な量購入させてもらった。
結構な量購入した筈なのだがこれでも金貨1枚に満たない金額だった。
昼には以前のように南大通りから昼食を買って公園で子供達と一緒に食べて午後は魔力のレクチャーを行うことにした。
あまり根詰め過ぎても魔力や体力の消耗が激しくなってしまうので時折子供達には休んでもらい、子供達が喜んでくれた『我地也《ガジヤ》』によるガラス人形を使用して娯楽小説の一節を再現した寸劇を見せたりもしていた。
その際は目立ちすぎないように周囲を壁で囲っておいたりもした。
私がこの街にいる時間も残り少ないことを知ると、やはりシンシア以外の子供達からは別れを惜しまれてしまった。
この子達が納得するまでもうしばらく滞在することになるかとも思ったが、驚いたことにシンシアが皆を諭してくれたのだ。
「みんな!ノア姉チャンを困らせるなよ!ノア姉チャンにはやりたいことがいっぱいあるんだぜ!」
その言葉をきっかけに子供達は渋々と言った形であれど、納得してくれて、街を出る際には見送りをするとまで言ってくれたのだ。
それにしても、シンシアからはかなり懐かれていたと自負していたのだが、別れを惜しまれることが無かったとは…私の自惚れだったのだろうか?
「ノア姉チャン、宿屋の娘を甘く見んなよ?どれだけの人数オレや店の皆に良くしてくれた人達を見送ったと思ってんだよ?それに、もうこの街には来ないってわけじゃないだろ?またこの街に来た時には、またウチに泊まってくれよなっ!」
なんとまぁ。私は大分愚かだったのな。シンシアは幼くして既に立派な宿屋の従業員だったのだ。
私の自惚れでは無く、シンシアが言っていた通り私が彼女を見くびっていただけのことなのだ。それはシンシアに対してとても失礼なことをしてしまったな。頭を撫でながら謝罪しておこう。
「済まなかったね。確かに、シンシアのことを甘く見ていたよ。シンシアはもう立派な宿の従業員だ。だけど、それでも冒険者を目指すんだね?」
「モッチロンッ!オレもノア姉チャンみたいに強くなって、それでみんなを幸せにするんだ!」
「俺もだぜ!」「僕もー!」
「しょうがないからアタシも付き合ってあげるわ!」
「冒険者には魔術師がいた方が良いからね。ボクも一緒だよ!」
微笑ましいものだな。短い間ではあったが、この子達を見る限り、シンシアやテッドは勿論のこと、他の3人も冒険者として十分にやって行けるだけの才能があると判断した。
だとしたら、後はこの子達次第だ。願わくば、この子達が欲に飲まれず健やかに育って欲しいものだな。
教会で覚えた天空神への祈りの作法を取り、ルグナツァリオへと願っておこう。
『なかなかの無茶ぶりをするものだね。だけど、他ならぬ貴女の頼みだ。少しぐらいは目に掛けておくよ』
…本当に思い立ったらすぐに行動に移す神だな。まさか祈りをささげた直後に返事が来るなど、誰が想像できるだろうか?
彼の声は他の子供達には聞こえていないようだ。声を送る相手も選べるというのだろうか?便利なことだな。
それから話は変わって、王都への移動手段なのだが、乗り合いの馬車で王都まで向かうことにした。
子供達からの質問で王都まではどうやって行くのか質問された時に手っ取り早く走っていくと答えたのだが、クミィからそれではつまらないと苦言されてしまったのだ。
「時間は掛かるけど、王都へは乗り合い馬車で行くのが一番よ!馬車からゆっくりと眺める街道の景色は最高なんだから!」
とのことだ。馬車で王都まで移動しようとした場合、およそ5日ほど掛かるらしいが、その5日間で見る景色はどれも絶景なのだそうだ。
衣服や装飾などの芸術関連にて最も敏感なクミィが言うのだ。本を読む合間に楽しませてもらうとしよう。
日が変わり、羊の月の9日。宿屋の宿泊契約が終わり、王都へと向かう日がやってきた。
馬車に乗る場所である馬車停泊所も乗るべき時間も昨日の時点であらかじめ聞いている。西門の前、午前の鐘6回目だ。
シンシアに朝早くに目覚めさせされ、いつもよりも早く起きていたジェシカに挨拶をしてチェックアウトの手続きをしてからシンシア、ジェシカと共に余裕を持って馬車停泊所へ向かうと、そこには既に私を見送るために大勢の人が集まっていた。
「ノア姉ちゃん!絶対、またこの街に来てくれよ!?」
「今度会う時は、もっといっぱい遊ぼうねー!」
「ノアさん!見ててよね!アタシ、ノアさんみたいにすっごい美人になって見せるんだから!」
「ノアお姉さん、ボク、立派な魔術師になって見せます!それで、ノアお姉さんが魔術書を渡してよかったって思ってもらうんです!」
子供達がそれぞれに別れの言葉を告げる。4人共必ず再会する気のようだ。言われなくとも、再びと言わずちょくちょく遊びに来させてもらうとも。
「ノア。貴女のことは既に王都の冒険者ギルドのギルドマスターに伝えてある。向こうで浅ましい連中に無駄に絡まれることは無いだろう。それはそれとして、彼は胃薬の常用者でね。できれば手加減してやってくれると助かる」
「向こうの魔術師ギルドにも連絡済みよぉ~。でもぉ~、あんまり指名依頼を出し過ぎて困らせたらダメって忠告もしておいたからぁ~、安心してねぇ~」
ユージェン。私が王都に着いた際、”中級《インター》”だからと侮られないように手を回してくれたようだ。ありがたい。
そしてエネミネアの言葉は、何処か苛烈さを感じさせるものがあった。それこそ、私に指名依頼を大量に送った場合、エネミネアが直接王都まで出向いてきそうな勢いを感じさせられた。
「ハッハッハッ!いやぁ、たったの1週間だと言うのに怒涛の勢いだったねぇ!ノアさんのベルベット生地の衣装!是非ともお目にかかりたかったものだよ!」
「ノアさん、ダンの言うことはあまり本気にしなくて良いですからね?ふふふっノアさんはきっとあまり活動しないようにしようとするかもしれませんが、私の予想では結局大きなことをしでかしてしまうと思いますよ?」
ダンダード。相変わらず愛する妻が隣にいるのにもかかわらず私を含めた他の女性に視線が行っているな。後でどうなっても知らないぞ?
そしてタニア。私もそんな気がしてならなくなるからあまりそういうことを言わないでもらいたいな。そういうセリフは言ってしまったが最後、実現してしまうのが世の常だと本で読んだばかりなんだ。
「姐さん!本当にお世話になりました!オレ達、まだ魔術言語も覚えられてないっスけど、でも、ちょっとずつ文字の読み書きができるようになってきたっス!」
「お姉様がいなかったらきっと私達、こんな風に毎日を充実した生活を送れていなかったです!」
「僕達もいつか立派な冒険者になって見せますね!」
トト達3人の冒険者。彼等との接点はあまりない筈だが、彼等からしたらそうでは無かったということなのだろう。3人共、瞳が眩しい程に輝いて見える。
自惚れでなくこの輝きを私がもたらしたのだと言うのであれば、それは私にとっての誇りだな。彼等が有名な冒険者になった時には自慢させてもらうとしよう。
「ノアさん、王都の中央図書館はこの街とは比べ物にならないくらい広い図書館よ。存分に楽しんで着て頂戴ね」
「ノアさんには本当に感謝しています。それと同時に苦労もさせられましたが。はぁ…不思議なものですね。ノアさんに会ったのはつい先週だと言うのに…。こんなにも寂しく感じてしまうのですから。ですから、必ず、必ずまたこの街に来て下さいね!?依頼を受注しなくてもいいですから!これで会えなくなるなんて言わないでくださいよっ!?」
エレノア、最後の最後で私の心を弾ませる情報を提供してこないでもらえないだろうか?王都へ着くまでの5日間がもどかしく感じてしまうじゃないか。
エリィ、そんなに心配しなくとも、ちょくちょく遊びに来るとも。子供達だって我慢しているんだから、大人の貴女が涙を流していたら示しがつかないよ?ほら、頭を撫でてあげるから、泣き止もう?
「エリィったら泣き虫なところまで変わってないんだから…。ま、私はノアさんがもうこの街に来ないだなんて微塵も思ってないわ!何せこの1週間、ハン・バガーセットを食べない日が1日たりとも無かったんですもの。またふらっと食べに来ることぐらい簡単に想像できるわ」
ジェシカ、流石に私のことを良く理解している。
ただ、言っておくけど、私はそこまで食いしん坊じゃないぞ?本当にトーマスの料理が美味かったからあれだけの量を食べたのだ。その味が失われない限り、私はこの街に、あの”囁き鳥の止まり木亭”に通い続けるとも。
「ノア姉チャン…」
「シンシア。我慢する必要なんてないんだよ?シンシアはまだ子供なんだから、甘えて良いんだ。立派な宿の従業員だからって別れを惜しむ客がいたっていいだろう?しばらくは会えなくなってしまうだろうけど、必ず会いに来て、宿に泊まらせてもらうから。その時はまた、朝起こしてくれるかな?」
「うん!絶対、絶対泊りに来てくれよっ!?毎朝起こしてやるからな!」
涙をこらえきれなくなったシンシアを尻尾で手繰り寄せて抱きしめる。涙を見せないと宣言したのだ。落ち着くまではこの顔は皆の前に出さないでおこう。
まさか、これほどまで別れを惜しまれ、そして見送ってもらえるとはな。ちょっと想像できなかった。
彼等のためにも、必ずまたこの街に訪れよう。
馬車が動き出したようだ。ゆっくりとだが、確実にイスティエスタの城壁が遠のき、小さくなっていく。
さて、王都へ着くまではとても時間がある。
ゆっくりと読書をしながらクミィが絶賛していた街道の景色を楽しむとしようか!
そう思って『収納』から未読の本を取り出したところで―――
〈おひいさま。早朝に失礼いたします。今、よろしいでしょうか?〉
ゴドファンスから『通話《コール》』が掛かってきた。何かあったのだろうか?