何だろう、来て早々やらかしたような気がするのは気のせいかな? 気のせいだといいな。ただ、ばっちゃんが物凄くご機嫌で、画面の向こう側にいるジョンさんがジャッキー=ニシムラ(アヒルパンツ)さんに耳打ちされて笑ってるから滅茶苦茶不安になる。
『ティナ、某国からの攻撃を検知。銀河航海法に則り正当防衛と報復を実行しました』
「はぁ!? いつの間に!?まさか、今のデブリは嘘なの!?」
『嘘ではありません。某国が人工衛星の軌道を修正、我が艦隊への衝突を意図しました。また、ISS国際宇宙ステーションへ衝突の可能性があったことも事実です』
「アオムシが余計なことを考えないようにお仕置きしただけだよ、ティナちゃん。それとも、やり過ぎとか言う?」
「それは……」
まだ諦めてなかったの!? しかも人工衛星をぶつけるなんて、そんなことを考えるのが信じられない。いや、前世からなにかと困った国ではあるけどさ。
それに、こっちは軍艦だしシールドもあるけど直ぐ側にはISSがあるんだ。こっちにぶつかったら洒落にならない。大変なことになる。
『今回の件は明らかに危険な行為であり、我々は自衛を行い同時にISSを守りました。少なくともこれは正当な理由になります』
「データはあるの?」
『はい、ティナ。軌道修正を命じた履歴なども全て収集しています。これらのデータを全世界にばら蒔く予定ですが』
そんなことしたら大騒ぎになる!
「合衆国と日本にだけ知らせて。ハリソンさん達なら上手く纏めてくれると思うから」
『畏まりました』
「ティナ姉ぇは優しいね。撃つなら撃てるけど」
「私たちは交流に来たんだよ、フィーレ。戦う相手はセンチネルだけで充分」
「ふーん……まあ、別に良いけど。地球の技術と食べ物には興味があるから早く降りようよ」
「ダメだよ、騒ぎになってるしちょっと様子を見よう」
私に言わなかったのは、迷いが出るからだろうなぁ。いざとなればばっちゃんが泥を被れるように……。
はぁ、護られてばっかりだ。
「ティナちゃんはいつものように振る舞えば良いよ。悪さするアオムシは私が排除するし、汚れ役も私がやるから。若い子は前を向いてガンガン進めば良い☆」
「ばっちゃん……」
「ティナ、合衆国政府から問い合わせが来ていますよ」
「分かった。ジョンさん、ごめんなさい。また騒ぎを起こしちゃって」
『良いさ、あの国にも良い薬になっただろう。それに君たちはISSを護ってくれたんだ』
『感謝しますよ、ティナ嬢。あれには私の弟が居ますからな!』
ジャッキー=ニシムラ(細マッチョ)さんの弟かぁ……濃い人なんだろうなぁ。
とは言え、この件は地球でも大騒ぎになってしまった。どうやら私が事前に送ったメッセージでも紛糾していたみたいで、それに拍車を掛けた形だ。
月面に拠点を作る計画なんだけど、月は地球の共有財産となっていて私がやったのは領土を寄越せと言っているようなものだ。そう言えば前世でそんな感じの条約があったような気がする。
何より今は小さくても月面基地があるんだから、共有財産と言うのはより現実味を増している。相変わらずのポンコツに我ながら嫌になる。
「でも、アオムシが変なことをしてくれたお陰でスムーズに話が進んでいるみたいだよ☆」
「どういうこと?」
『今回の制裁で、我々が破壊した衛星の中には合衆国はもちろん主人格である中華すら把握していない物も含まれていました。そんな物体すら瞬時に把握してピンポイントで破壊したのです。各国は半ば恫喝を受けたようなもので、拠点構築に関する議題もスムーズに進んでいるのだとか』
あんまり地球の皆さんを怖がらせたくは無いんだけどなぁ。
「ティナちゃんの優しさは美徳だけど、地球人相手には時に武力による恫喝が必要だと思うよ?☆私達より遥かに好戦的なんだ。逆に言えば、分かりやすく圧倒的な力を見せ付ければ素直になるんじゃないかな?☆」
「ばっちゃん、私達は侵略者じゃないんだよ。仲良く交流するために来てるの!」
「だからだよ、ティナちゃん。先ずは恫喝して黙らせて、次にティナちゃんの優しさと地球では考えられないくらいの見返りを用意すれば良い。要はアメとムチだよ☆」
「うーん……」
アメとムチかぁ……私には絶対に無理だよね。だからばっちゃんやアリアが率先してムチの役目をやってくれるんだろうけど。
「ティナ、私も甘さだけじゃダメだと思います」
「フェル?」
「異星人対策室の皆さんみたいに、地球には素敵な方もたくさん居ます。でも逆に、スーパーマーケットの時みたいにティナへ敵意を、武器を向ける地球人だって居ます。
ティナはそんな人達も赦してしまうくらい優しいのは知っていますが、大切な人に武器を向けられる気持ちを少しは汲んでください。時には厳しく、ね?」
フェルにもたくさん心配掛けちゃってるもんね……。それに、まだフェルは全てを失って一年も経っていない。こっそり泣いているのも知ってるし、不安や悲しみで眠れない夜を一緒に過ごしたのも一度や二度じゃない。
フェルはこれからも私が無茶するのを止めない代わりに、時には報復も必要だと言っているんだね。
「悪意には相応の報復を。それが結果的にティナちゃんの安全に繋がるし、より良い交流のためになる。まあ、その辺りは私達に任せて☆ティナちゃんは自分のやりたいようにやれば良いからさ☆」
「……ありがとう、皆」
皆に助けられて支えられてばっかりだ。いつかお返しが出来たら良いな。自重は……多分無理だけど。
改めて自分の恵まれた環境を再認識して、皆に感謝の思いを新たにした時。いままで黙ってフヨフヨと無重力で浮いていたフィーレが口を開いた。
「で、ティナ姉ぇ。人型機動兵器はどこ?あの宇宙ステーションには無さそうなんだけど?」
「ひっ、人型機動兵器ぃ!? 何の話をしてるのさ!?」
待って! 何処からそんな話が出たの!?
ちなみにアードにはあるよ。いやまあ、どちらかと言えばパワードスーツに近いけど。
「いやだって、このホロムービー見てよ。いろんな種類があるじゃん。これ、地球の人型兵器を紹介するやつじゃないの?」
フィーレが端末で見せたのは、日本が誇る数多のロボットアニメ特集だ。
アードにもアニメはあるけど、娯楽作品ではなくて子供の教材としての面が強い。つまり、架空の物語をアニメにするなんて発想がそもそもアードにはない。せいぜい小説の世界だ。
また盛大な勘違いをする妹分に果たしてどう説明するか、ティナは別の意味で頭を痛めるのであった。
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