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「おい、皇后崎…姉さん達は」
「…ごめん」
「…ッ」
桃華の背中をさする皇后崎に海は姉の安否を聞くが、求めた答えは来ない。
段々と、焦りと理不尽な怒りが募っていく。
だが、苦しそうな皇后崎の顔を見ると何も言えなくなって、言葉を飲み込んでしまう。
あの状況で二人を置いていくのは、心理的にはともかく、確実に長く時間稼ぎのできる方法だった。
分かっているのだが、自分の中に落とし込むことが、納得することが出来ない。
「…姉さんを、助けに行ってくる」
歩きだす海を白黒頭のクラスメイト_手術岾ロクロが青い顔で引き留めた。
「かかか、かみ、神示、さん」
「離せ。邪魔だ」
「でも、今は危な…」
「うるさい。退け」
うざったいとでも言うように振り払おうとするが、やはり男と女では力の差がある。
海は少し手術岾の手を捻るようにして振りほどき、拘束を抜けた。
だが、襖の前には桃華がいた。
「避けてくれ。桃華」
ただ俯いて、黙って通せんぼをする桃華に海は怒鳴る。
「姉さんが、京夜兄さんが…、死ぬかもしれないんだッ!どけ!」
桃華はその言葉に反抗するように涙を目一杯に浮かべ、海に言い返した。
「ぼくらがいって、なにになるの!?」
それは、自分の無力さを知っている者の叫びだった。
悲しそうに、痛々しげに叫ぶ小さな桃の花は、八つ当たりをするように、言葉を吐いていく。
「ぼくらがいっても、まもらなきゃいけない人がふえるだけだよッ!」
小さくとも、ずっと守られ続けて生きてきた少女の抱える無力感や焦燥感は、狼という形になって現れていた。
僕も戦えるよ、あなた達を守れるよ、と。
だが、現実はそう甘くない。
姉達はあくまでも自分の命をとしてまで守ろうとし、兄と慕う人達に至っては戦闘員の頭数にもいれて貰えない。
「ぼくたちは…なにも、できないよ…っ」
ぽとりと、桃華の瞳から涙が零れ、血塗れの畳に染み込んでいった。
海は冷水を頭からかけられたような心地がした。
「とうか」
自分の至らなさに吐き気がする。
姉だというのに、妹を泣かせて。
これを姉が見たら、どう思うだろうか。
「桃華」
今は、皆を守らなければ。
それがあの人たちの頼みであり、願いならば。
海は、いつの間にか浮かんでいた涙を吹いて全員に言った。
「取り乱した。…すまない。逃げ道はあるだろうか」
女性隊員に問うと、「全部塞がれてしまっている」との答えが帰ってきた。
「そうか…」
静かな水面のように動かない顔で逃げる方法を考える。
もう、あんなに感情を露にしていた海は何処にもいない。
代わりに、冷静に戦況を分析し、見極めようとする者の姿があった。
冷静であれ。
自分に言い聞かせ、深呼吸をする。
四季が海に心配そうに話しかけてきた。
「なぁ、神示」
「どうした?一ノ瀬、何かあったのか?」
四季は少しはくはくと口を明け閉めしてから、少しトーンを落として言った。
「無理は、すんなよ」
海は目を少し丸くしてからこくりと頷き、言った。
「もちろん。姉さん達のためにも無理はできな…」
「そういうことじゃねぇよ…!」
四季ははっとしてから少し目を伏せ、声のトーンを落として言った。
「キツい時は、言ってくれよ…。あんなに…船で、喋ったじゃんか…」
少し気まずそうに言う四季に、海は黙って四季の手を引き、別室へと連れていく。
ざわざわとしているクラスメイトや隊員達を他所に、四季は困惑しながら、海は表情を動かさず襖を閉じ、 四季に近付いてごつりと四季の胸に頭をぶつける。
痛みを訴える四季を無視して、海は口を開いた。
「…じゃあ、聞いてくれるのか?」
海は声が震え、肩も震えている。
四季は少し困惑したが、そっと海の頭に手を置く。
「… おう。なんでも聞く」
そして、海の頭をゆっくりと撫でる。
海はびくりと肩を動かしたが、落ち着いたのか息を吐き、ぐりぐりと頭を擦り付ける。
「顔は、見ないでくれ」
そう言う海は、泣いていると、顔を見なくてもわかった。
「京夜兄さん、姉さん…生きてて」
ただ、それだけで良いから。
あとがきです 。
すいません。書き忘れてました。
すっころんだ痛みで多分吹っ飛んでたんですね。後書きの事。
いかがでしたか?
少しだけ海が弱々しい女の子に見えたのではないでしょうか。
まあ、鬼の力がなければただの女の子ですからね。
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では、また。
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