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「一ノ瀬…姉さん達、大丈夫、かな…」
途切れ途切れのその言葉を皮切りに、四季の服が湿っていく。
ゆらゆらと揺れる蝋燭の火のような精神の海を、四季はただ慰めることしか出来ない。
涙を流しながら、海は四季の背に手を回すと、抱きしめた。
「神示!?」
「こうすると、安心する」
真っ赤になっている四季に、海は少し抱きしめる力を強くして言う。
「こうしていると…姉さんを抱きしめているみたいで」
そう言うと、少しずつ海の声が嗚咽に変わっていく。
四季は硝子細工を触るように海の背にそっと手を回した。
すると、嗚咽は泣き声になり、どんどん溢れて止まらなくなっていく。
四季は海に言った。
「アイツなら生きてる」
安心させるように。
守があの幼い少女にしていたように。
同じくは出来なくても、安心してくれるように、また元気になってくれるように祈って。
「だからさ、神示」
コイツの為に、笑って、言ってやれ。
「やってやろうぜ。『もう仕事ねぇよ』って言ってやんだよ」
すると、海は「ふはっ」と少し目尻の涙を拭きながら笑った。
「あぁ、そうだな」
そう言う海の顔は、この状況で変な話ではあるが、晴れやかな顔をしていた。
「ありがとう。一ノ瀬」
精神を安定させられた事を確認し、皆の元へ戻る。
戻ると、桃華が目をキラキラと輝かせて鼻息を荒くして尋ねた。
「うみねえといちのせくん、はるがきた?」
「「断じて違う!!」」
幼いがゆえの無邪気な攻撃。
それに対して二人揃って真っ赤になって言い返すが、周りは生暖かい目でこちらを見ている。
「私は、少しも、これっぽっちも、一ノ瀬をそういう目で見たことは無い!」
四季はぎょっと海のことを凝視した。
(そこまで言う?)
恥ずかしいのは分かる。
だが、そうだとしてもそんな風に言われてしまうと、流石に傷付いた。
海は「あっ」と手で口を押さえている。
「すまない、一ノ瀬…」
ばつが悪そうに言う海に、遠い目で返す。
少し空気が和んでいたが、ぴくりと桃華と狼達が出口の方へ視線を向け、睨んだ。
「あなたは、もも?」
その言葉に返答するようにぬっと障子の影から出てきたのは犬とも猿とも、雉とも言えない異形の化け物だった。
全員が息を飲み、その怪物に目を釘付けにさせられる。
ある隊員の前に行くと、口を大きく開け、牙を剥き出しにして喰らおうとする。
だが、人を喰らうより先に怪物は前鬼に頭から喰われ、だらんと力を失くして絶命した。
「ひっ…!」
誰の悲鳴なのかは分からないが、その一瞬の出来事は恐怖心を抱かせるには十分すぎた。
一斉に非戦闘員達は逃げようと走りだし、部屋から出る。
「まって!あつまらないと、まもれない!」
桃華は必死で止めようとするが、腕力の無い子供の力ではたかが知れている。
(かいぶつが、ももが、きちゃう…!)
服を引っ張ったり、手を引っ張ったり。
頑張っていても、振り払われる。
焦燥感に押し潰されそうになって青い顔になってしまっても引き止め続ける。
「だめだよ…!」
自分の幼さが歯痒く、情けない。
それでも必死に引き止めていると、後ろから手が伸びてきた。
「非戦闘員集めりゃいいんだろ」
ぶっきらぼうに桃華に声をかけたのは、矢颪碇だった。
驚きよりも先に、助けてくれた嬉しさが桃華に笑みを作らせた。
「はい…!」
その後は前鬼と後鬼にも手伝ってもらい、全員を一室に集めた。
守る対象が散らばっているより、集まってくれていた方が守りやすい。
部屋に来た怪物を次々と葬り去り、暫く怪物の来ない時間が続いた。
桃華がきょろきょろと廊下を見ているのを見て、矢颪が話しかける。
「おい」
「ふひゃうっ! 」
「は?」
驚いて飛び上がった桃華は矢颪の顎に頭突きをし、「おうぅぅぅ」と言いながら蹲った。
ぶつかられた側の矢颪は痛みに顎を押さえて呻いている。
「お前、痛ぇな!」
「ごめんなさい!」
痛みのあまり半泣きで謝る桃華に、矢颪は顎を依然押さえながら気を取り直して聞いた。
「外見ても何も無ぇだろ?何で外見てんだよ」
桃華は「えっと、あの…」と少し言いにくそうにしながら言った。
「うみねえが、いないんです…」
「それを早く言え!」
「ホントにごめんなさい!」
90度の美しいお辞儀を見せながら謝る桃華に、矢颪は頭をがしがしと掻きながら息を吐ききった。
「…アイツ捜しに行くか?」
小さくぽつりと言うと、桃華は目を輝かせて「はい!」と子犬のように返した。
「言っとくが、戦えないんなら来るんじゃねえぞ!」
桃華を指して言う矢颪に、桃華は不敵に「ふふっ」と笑って言った。
「もちろんです。じぶんくらいじぶんでまもれます」
奇妙なバディが誕生した瞬間であった。
今回も見て下さり、ありがとうございました。
妹と張り合って5箇所擦りむきました。作者です。
もうほぼ治ってきたんですけどね。痛かったもんは痛かった。
こんな作者ですが、次も読んでくださると嬉しいです。
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