TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する


「律さん、今日はどこのライブハウスに行かれるのですか?」


「アウトラインというライブハウスです。新藤さん、ご存じですか?」

「はい、知っています。ただ、行った事はありません。廃盤機材ハウス――お宝の巣窟として、通には有名なライブハウスですよね」


「私も主人も、アウトラインの店長の森重さんという方と懇意にしているのです。きっと新藤さんとも話が合うと思いますよ。すごく音楽のことに詳しいですし、機材のことも……。音楽オタク店長ですから」


「そうですか。素敵な方なのでしょうね」


アウトラインのことはもちろん、店長の森重隆司という人間を俺はよく知っている。

森重店長、略してモリテンには、彼がまだ大阪の老舗ライブハウスで店長を務めていたころに随分世話になった。俺がまだRBに加入する前、大阪のライブハウスで働いていた十代のころの話。


彼は面倒見のいい店長で、機材や音響にメチャクチャ詳しい。PA(音響)の腕や音作りについては、彼のお陰で俺の耳や腕が鍛えられた。

仕事もなくその日暮らしの生活をしていた十代のころ、モリテンが勤めるライブハウスの前で、好きなアーティストのリハ音が聴きたくて壁に耳を当てて立ち尽くしていた俺を招き入れてくれて、バイトとして拾って育ててくれたのが彼や。


モリテンは昔からの夢を持っていた。自分のこだわりをいっぱいに詰めたライブハウスを地元神戸で立ち上げたい、夢半ばでメヤーデビューを諦めた自分の代わりに、バンドでデビューを目指す若い世代を育てたい、というのが彼の口癖だった。


RBは大阪中心、更にメジャーになってからは関東中心に活動していたから、神戸の方までは来れなかった。

若いころの恩返しのために、RBで出演してモリテンの夢が詰まった小さなライブハウスを盛り上げたかった。でも、ピーク時のRBはドームクラスのライブをやっていたから、俺の一存や恩では実現できなかった。


モリテンのことを久々に思い出した。彼は元気にしているのかな。相変わらず音オタクなんかな。音オタぶりを発揮しすぎて彼女ができないと言ってたアレは継続中なんかな。もういい年齢だから身を固めたかもしれないな。久しく会っていないから、なんの情報もなくてわからない。


「はい! あ、新藤さん。コンビニへ寄っていいですか?」


「ええ、構いませんよ」


「差し入れを買って来ますね」


アウトラインへ向かう途中のコンビニエンスストアに立ち寄り、差し入れのビールやつまみを購入して下山手通を西へと歩いた。

五分ほど歩いて路地裏に入ったところがアウトライン。駅からも近くて立地もいい。但し小さなライブハウスだから、メジャーなアーティストはなかなか来ない。

だからRBもアウトラインに出演できなかった。ドームクラスでツアーをするバンドが利用したら、人が集まりすぎて死人が出てしまう。

でも、もしアウトラインに出演できていたら、モリテンに俺の生歌や演奏を聴いてもらえただろうな。

彼は音に関してメチャクチャ厳しいから、褒められることはなかっただろうけど。



空色と話をしていると、あっという間にアウトラインに到着した。



残念や。もっと彼女と一緒に歩きたい。

あと少しでいい。ただ楽しい時間を過ごしたい。彼女が微笑み、楽しそうに話すのを聞いているだけで、俺は幸せな気分になれるから――



そうはいっても楽しい時間は無情にも過ぎていく。きっとライブを共有する時間もすぐ終わってしまうのだろう。怪しげなライブハウス独特の雰囲気のある入口を通り、会場に入るためのゲストパスをもらった。

ゲストパスなんて懐かしい。いつぶりに触れたかな。

loading

この作品はいかがでしたか?

8

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚