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智絵里は頭を優しく撫でられるのを感じた。ふと手を伸ばしてその手を掴もうとすると、温かい腕の中に抱きとめられる。
恭介の匂いがして、智絵里は体の力が抜けた。
「ん……おはよう……」
「おはよう。ご飯出来てるよ」
「本当? さすが恭介だわ……」
「ちゃんと寝られた?」
「おかげさまでグッスリ。寝過ぎなくらい寝てる」
恭介は智絵里の隣に寝転んで、腕の中の智絵里を愛おしそうに抱きしめる。
「今日はさ、家から智絵里の会社まで歩いてみようか。俺は電車通勤だから、朝は一緒に行けないからさ」
「でも、携帯のナビ機能あるから行けるよ」
「お前……ちょっとはデートとか、イチャイチャムードとか考えない?」
「……そういうの慣れてないから、ちゃんと恭介がリードしてくれないと無理」
「ふーん……リードねぇ……」
すると恭介は智絵里の唇を塞ぎ、朝とは思えないくらい激しいキスを繰り返す。智絵里は昨夜のキスを思い出して体が熱くなる。しかし唇を離した恭介はいたずらっぽく笑うと、そのまま立ち上がる。残された智絵里は力が入らず、ベッドの上で息を乱す。
「じゃあご飯たべようか」
「……こんなのずるい……!」
「リードしてって言ったのは智絵里だろ? 俺は智絵里ともっとイチャイチャして愛し合いたいって思っているから。とりあえずキスは解禁されたから、いずれお前から俺が欲しいって言わせるからさ」
恭介の背中を見ながら、ドキドキが止まらなくなる。こんな恭介、知らないよ……。男の人になった恭介はあまりに刺激的過ぎて、つい口を滑らせてしまいそうになる自分に驚いた。
* * * *
二人は会社までの道のりを歩いていた。以前の部屋の方が明らかに近いが、それでも五分ほどの差だった。
「なるべく人通りの多い道を歩けよ。夜とかは一人じゃ危ないし」
「わかってるって。相変わらず心配性なんだから。なんか恭介って昔から私には過保護だよね」
「一応心配してるんだけど」
「はいはい、ありがとうございまーす」
「……なんかやっぱり歩きって心配だな。自転車とかは? それか帰りだけでも迎えに来ようかな」
「……私もう大人だよ。大丈夫だよ」
「大人だって犯罪に巻き込まれるだろ。うわっ、どうしよう……自分で言って不安になる」
急にあたふたと焦り始めた恭介を見て、智絵里は声を上げて笑い始めた。
「あはは。じゃあそんなに心配なら時々迎えにきてよ。で一緒に帰ろう」
「……なるべく毎日来るようにしよう」
「私のことよりお仕事頑張りなさい」
その時、二人の母校である海鵬高校の制服を着た男女とすれ違う。二人は自然と目で追った。
「懐かしいね……私たちもあんな感じだったのかなぁ」
「そうだな。高二の夏にあのことがあってから、なんか智絵里といるのが普通になった気がする。あの二人とはまだ連絡取り合ってるのか?」
「一花とは取り続けてるけど、めぐたんとは疎遠になっちゃったかな。そういえば恭介の友達と付き合ってたよね」
「うーん……確か大学二年生の時に別れたよ。俺も翔太とはかろうじて繋がってる感じかな」
「そうだったんだ……知らなかった」
「雲井さんは? 元気?」
「うん、もうすぐ二人目が産まれるんだよ」
「えっ! まさかあの時の先輩と……?」
「そう。今も仲良し夫婦でね、時々遊びに行かせてもらったりしてる」
「俺、あの先輩には負い目しかない……そっか……結婚したのか……」
「まぁ、あれがあったから二人の絆は強くなった気もするから、結果オーライでしょ」
智絵里は恭介と繋いだ手に、無意識に力が入る。
「本当はあの制服好きだったんだけどなぁ……あんなことがあったから、気持ち悪くなって……」
「……制服なんて、とってある奴の方が少ないだろ」
「でも一花は夫婦の制服を残してあるらしいよ。なんでも一花が高校生の時に、大学生の先輩に制服を着てデートしてもらったんだって。そんな思い出があるなんてちょっと羨ましい」
寂しそうに智絵里は遠くを見る。智絵里から寂しさを拭ってやりたい。どうしたらいいのだろう……。
「……そういえば俺の制服、袖口と前のボタンを智絵里が縫い付けてくれたの、覚えてる?」
恭介が言うが、智絵里は思い出せずに首を横に振る。
「元々付いていたやつより、智絵里が縫い付けた方がキレイなの。お前って手芸全般得意だっただろ? だから俺の制服は智絵里が付けたボタンがそのまま残ってる」
まさかそんなところに自分の痕跡が残っているとは思わなかった智絵里は、小さく微笑んだ。
「卒業式で誰かにあげなかったの?」
「だって誰にも言われなかったし。それで良かったって思ってるよ」
私の制服の良い思い出は消えてしまったけど、恭介の中で私の思い出が繋がっていたことが嬉しかった。