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恭介との生活が始まって、一カ月が過ぎようとしていた。朝は歩いて出勤するものの、帰りは心配性の恭介に待ち伏せされる日も度々あった。
「……ストーカー?」
「し、心配してやってんだろ⁈」
九年の年月が経っても、元々の性格は変わらないらしい。だが離れていた間の恭介を知らない智絵里は、時々不安になったりもした。
智絵里自身は服飾系の女子大に進み、勉強に専念し、今の会社に就職した。男の人が怖いのに近寄られると不安になり、引越しを繰り返していた。
実家に戻ることも考えたが、そうすると電車に乗らなくてはならず、今の会社を辞めたくない智絵里は自身が動くことを決めた。
一人は不安なのに、一人でいることを選ぶしか出来なかった。そんな時に恭介が目の前に現れたのだ。
彼のおかげで、不安だった心が満たされていくようだった。頑張って強がっていたのに、恭介に頼って甘えることを知ってしまったから、彼がいなくなることを考えるだけで怖くなる。
恭介は今まできっといろんな女性と付き合ってきたんだろうな。だって女の扱い方を知ってるし、キスだってあんなに上手……そう思うと、見たこともない知らない女性に嫉妬してしまう。
毎日寝る前に恭介とキスをする。幸せなのに、不安になるのはやっぱり彼のことを好きだからだと思う。
智絵里はせっかく日比野とカフェでランチをしていたのに、関係のないことを考えてはモヤモヤしていた。
「ねぇ智絵里ちゃん、なんか考え過ぎてる顔してるよ」
「そ、そんな顔してます?」
「してるしてる! もしかして同棲中の彼のこと?」
指摘され、つい下を向く。
「日比野さんは、彼氏の元カノ事情とかって気になりますか?」
「……まぁ気になるけど、絶対に聞かないね。聞いてもいいことないもん」
「そ、そうなんですか⁈」
「自分以外の女の子とどこに行った、あんなことしたとか、知ったところで比べちゃったりしたら嫌じゃない? しかも男って、大体の奴が元カノを悪くは言わないのよ。イライラするのはこっちだし、知らぬが仏だと私は思ってる」
「なるほど……深い……」
「なぁに? 彼にヤキモチ妬いてるの?」
「えっ……! あ、あの……まぁ……そうなんですけど……」
今までに見たことのない智絵里の姿に、日比野はつい顔の筋肉が緩んでしまう。
男の人が苦手だと言って、いつも硬い表情だった。それがあの彼と再会してこんなにも緩むものなのねぇ。
「これは松尾さん情報なんだけど、やっぱり彼、結構モテてたみたいだよ。合コンにあいつは連れて行きたくないけど、人数合わせで仕方なく誘うと、大体の女性が彼狙いになるんだって。でも付き合ってもどこか冷めてて、長くは続かなくて。でね、付き合うタイプの女性がみんな一緒で、黒髪ロングの背が高めのキレイ系女子。わかる? 彼はずっと智絵里ちゃんを引きずってたのよ」
「……たまたまじゃないですか? 私みたいな人っていっぱいいるし」
「でも智絵里ちゃんは一人でしょ? 見た目と中身が合致する人間は、世の中に一人しかいないんだよ。それに松尾さん、あんなに取り乱した篠田は見たことがないって言ってたよ。確かに前の彼女は気になるかもしれないけど、彼は智絵里ちゃんを探してたんじゃないかな。だからもっと自信を持っていいと思うよ!」
日比野に言われると、不思議とそうかもしれないと思えてくる。
「そうですよね。見たこともない過去の女に嫉妬して、クヨクヨしても仕方ない!」
「そうそう。頑張れ!」
元カノを気にするより、今は私を好きだと言ってくれる恭介を信じよう。きっとそれが私の自信にもなるはずだから。