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第8話「こんな距離……反則だろ」
紗愛が眠ったあと、
樹はずっとリビングで様子を見ていた。
熱はまだ下がらない。
寝息は弱くて、たまに苦しそうに眉を寄せる。
「……ほんと、無理すんなよ」
つぶやきながら、
樹はスポーツドリンクをカップに入れて温め直す。
ソファに戻った時、
紗愛がふらふらっと身体を起こした。
「……っさむ……」
「起きたのか?」
「……樹……」
弱い声で呼ばれて、
樹の胸が一瞬だけつまる。
「ほら、飲めるか?」
「……ん……」
紗愛は樹の手を借りながら少しずつ飲む。
その間、
身体がフラフラして支えを失い――
そのまま樹の胸に倒れ込んだ。
「わっ……紗愛……!」
「……やだ……はなれ……ない……」
紗愛は熱のせいで完全に力が抜けていて、
樹の服をぎゅっと掴んでいた。
普段なら絶対しない甘え方。
樹はゆっくり腕を回し、紗愛の体温を抱き締める。
「……こんなときだけ素直になるの、反則なんだって」
紗愛は樹の胸に顔を埋めたまま、
小さく息を吐く。
「……樹……そばに……いて……」
「いる。
……今日はもう、どこにも行かねぇよ」
そのままソファで軽く横になり、
紗愛の頭を膝に乗せて撫でてやる。
弱った紗愛は、
少し涙を浮かべながらつぶやいた。
「……樹……いなくなるなよ……」
胸がきゅっと痛むほど可愛い。
樹は紗愛の頬にそっと触れた。
「いなくなんねぇよ。
紗愛が治るまで……いや、治ってもずっと……そばにいる」
紗愛の睫毛が震える。
「……っ……なんで……そんな優しいんだよ……」
「紗愛だけだから。
俺がこんなに心配すんの、お前だけ」
紗愛の手が、
樹の服をぎゅうっと掴む。
顔を上げた紗愛の目が、
涙でうるうるしていて……
樹の顔が自然と近づいた。
距離は、あと数センチ。
「……紗愛……」
「……やだ……来んな……///
……けど……来い……」
矛盾した言葉が、全部本音。
樹はそっと紗愛の額に唇を落とした。
「熱いから……今日はここまでな」
「……っ……バカ……」
けれど紗愛の耳は真っ赤で、
樹の胸に顔を埋めたまま離れなかった。
そのまま二人は、
指を絡めたまま眠りについた。