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「え!? それ、本当なの?」
夜、朔太郎と付き合う事になった経緯をビデオ通話で優茉に話していた咲結。
勿論、話の流れで朔太郎が『鬼龍組という組織の人間でヤクザ』という話もした訳なのだけど、その話を聞いた途端、優茉は驚くと共に難色を示した。
「うん。私もね、初めは驚いたよ。でも、そんな事が気にならないくらい、やっぱりさっくんに惹かれてたからさぁ」
「…………」
「優茉?」
突然黙り込んだ優茉を不思議に思った咲結が彼女の名前を呼ぶと、
「――ねぇ咲結、あのさ、悪い事は言わないから、朔太郎さんと付き合うの、辞めた方がいいよ」
いつになく真剣な表情を浮かべた優茉がはっきりそう口にする。
「どうしたの、突然」
何故優茉がそんな事を言うのか分からない咲結は首を傾げながら問い返す。
「いや、よく考えてみなよ、いくら何でもあり得ないでしょ、彼氏が極道の人間とかさ……ヤクザなんて、その辺の不良とは訳が違うんだよ?」
どうやら優茉は朔太郎が『ヤクザ』という事を酷く心配しているらしいが、彼女の心配は最もだ。
「分かってるよ? さっくんにも言われたし、その真彩さんにも言われた。でも、だからって好きな気持ちを消す事は出来ないもん……」
勿論咲結も自分が危険な選択をした事は分かっているのだけど、それだけが理由で朔太郎を諦める選択が咲結には無かった。
それを優茉にも分かってもらいたかったのだけど、咲結のその思いが優茉には伝わらなかった。
「……ごめん、咲結のその考え、私にはちょっと理解出来ないや……。私は親友として咲結を応援したい気持ちはあるけど、危険な目に遭うかもしれないって分かっててそれを見過ごす事は出来ない。とにかく、私は反対だから……ごめん、今日はもう切るね。おやすみ」
「……優茉……うん、おやすみ」
優茉によって切られた電話を眺める咲結。
優茉なら喜んでくれる、一番理解してくれると思っていた咲結だけに、この展開は予想もしていなかったようで、正直どうすればいいか分からず戸惑うばかりだった。
翌日、いつもより早く教室に着いた咲結は優茉にどう声を掛けるべきか悩んでいた。
昨日の話からして、朔太郎との交際は反対な訳で、別れるつもりが無いと口にすれば、この先優茉と一緒に居る事が出来なくなりそうな予感すらしていた咲結。
だけど、だからと言って朔太郎と別れるという選択をするつもりも無く、どうにか優茉に分かってもらいたいと考えた。
けれど、良い案は一つも思い浮かぶ事なく、クラスメイトたちが続々と登校して来て、その中に優茉の姿もあった。
いつもならば視線を合わせて挨拶を交わすのだけど、優茉の方も気まずいのか、お互い視線を合わせる事をしなかったので挨拶を交わす事が無かった。
明らかに様子のおかしい二人。
それは周りから見ても分かる程。
いつも一緒に行動している二人だけど、今日は言葉すら交わさない。
そんな二人を一番気にしていたのは玉井だった。
昼休みになり、優茉は別のグループの女子とお弁当を食べる中、咲結は他のグループの女子から誘われるもそれを断って弁当を手に一人教室を出て行った。
そんな彼女の後を追いかけた玉井。
咲結が向かった先は屋上で、元気の無い彼女は手摺りを背に座ってお弁当を広げていく。
そして、浮かない表情のままでお弁当を食べ始めた咲結の前に玉井が姿を見せると、無言で隣に座って彼もまたお弁当を広げていく。
「どうしたんだよ、今日、元気ねぇじゃん。寿とも全然話して無いみたいだし……」
いつもの咲結ならば、玉井が隣に座った段階で文句の一つでも口にしそうなものなのだけど今日はそういう気分になれないらしく、ただ無言で彼の言葉に耳を傾けては問い掛けに答えもせずにお弁当を食べ続けていた。