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──お正月の食卓で、
「私は、これからお友達のところへ新年のご挨拶まわりにお伺いして来ますから、お二人も初詣にでもお出かけになられてはどうですか?」
丸いお餅が入った、まろやかで美味しい白みそ仕立てのお雑煮をいただいた後に、華さんからそんな話が振られて、
「うん、いいね。一緒に行こうか、鈴」
彼が笑顔を向け、さりげなく私の名前を呼んだ。
「はい、行きたいです!」
名前を呼びかけられたことが嬉しくて、満面の笑みで返事をする。
「ではせっかくですから、お着物を着られてはいかがでしょう?」
すると華さんがいいことを思いついたと言うように、パンッと両手を打って口にしたものだから、「えっ、着物ですか?」と、ちょっとだけ面食らって聞き返した。
「そうだな、久しぶりに和装もいいかもしれない。前に千明が着ていた着物があるから、もし嫌じゃなければ着てみないか?」
彼の方も華さんに同意したことで、どうにも逃げ場がなくなってしまった。本音を言えば、着物はあんまり着慣れなくて、少しばかり気が進まないようなところもあったのだけれど……。
「えっとあの、以前に奥様が着られていた着物が嫌だったりなんていうことは全くないんですが、私に着物が似合うかなって……」
和装は自分にはなんとなく敷居が高い気がして、もしお断りができたらという思いで、そうボソボソと口にした。──すると、
「私も着るから、二人で着物デートをしようか」
彼がそう言ってきて、途端に彼の和服姿が見られるなんてと手放しで楽しみになって、「ハイ!」と、さっきまでの浮かない気持ちはどこへやらといった感じで、弾んだ声を上げていた──。