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「なんでお前が、鍵はどうした」
宇座課長は慌てて私から離れるとそのまま里中くんに体当たりしてから出口に向かっていく。
「そっちに行きました、捕まえてください」と叫びながら上着を脱ぐと、私の体に掛けてから腕に巻きつけられたガムテープを剥がしてくれた。
派手に何かが倒された音と共に宇座課長の怒鳴り声が聞こえる。その声に、体が反応してビクリとすると「もう大丈夫です」と言って顔に貼られたガムテープも「痛みますがすみません」と言いながら剥がしてくれた。
「里中さん、捕まえました。そちらはどうですか?」
廊下から声が聞こえると
「とりあえず警備室に連れて行ってから警察を呼んでください。こちらは大丈夫ですから、わたしは後で警備室へ向かいます」
「「わかりました」」
二人くらいの声が聞こえ、さらに「離せ」とか「同意」だとか叫んでいる声が小さくなっていった。
「すみません、僕の落ち度です。警察には話をしないといけないと思いますが大丈夫ですか?」
頷きながらもたくし上げられていた服を何度も何度も下げる。右足が固定されていてガムテープを剥がしたいのに力が入らない。
里中くんは下半身が見えないように上着を掛け直してからガムテープを剥がしてくれた。
涙が止まらない。
ストッキングもボロボロに破れ、目の前に里中くんがいることで安心して背中が痛むことに気がついた。
「奥山さんが襲われたことに関しては、社内で知られないようにします。事情聴取も警察署で行えるようにしますから、今から地下駐車場に移動します」
普段は使われない荷物運搬用のエレベーターで地下に向かい社用車の助手席に座ると里中くんは運転席に座り電話を受けていた。
「警察署にいくことになりますが、大丈夫ですか?」
頷くことしかできなかった。
車で移動中にポケットに入れてあるレコーダーを取り出して壊れていないか確認した。
何もしないでいると資料室での事を思い出してしまいそうだった。
里中くんはそんな様子を見て「録音してたんですか」と言ってから「さすが、いい判断です」と言った。
家には残業で遅くなると伝え、先日、母に言われたばかりなのにこんな事はさすがに伝えることができないと思った。
「両親には知られたくないんです」
そう呟くと「なんとか努力します」と答えてくれた。
警察署での事情聴取を終えると里中くんが待っていてくれた。
「僕が家まで送っていくこともできますが、誰か迎えにきてほしい人とかいますか?」
ものすごく凌太に会いたい。
そばにいてほしい。
「はい。でも、忙しい人だから」
「連絡をしてみて無理そうであれば僕が送っていきます」
連絡をして無理なら里中君に送ってもらおうと思い凌太に電話をすると2コールで出た。
『瞳?』
いざとなるとなんて言っていいのかわからない。
「僕が説明しましょうか」
「大丈夫」
『どうした?どこにいる?』
「◯◯警察署」
『今から行くから待っていて、詳しいことは会ってから聞く』
電話の先ではバタバタと音が聞こえ、慌てているのがわかる。それだけでホッとした。
迎えにきてもらえることを里中くんに伝えると「明日はお休みしてください」と言ってくれたが、きっと宇座課長のことは何かしらの噂が出てくるかもしれないので、出勤をすると伝えた。
「それでも、午前中に病院へ行ってみてもらってください。頭を打っていたり背中を打っている可能性もあります。あと、診断書もお願いします」
倒された時に頭を打ったかもしれない。声を出すのも億劫になり頷くだけにした。
凌太が来るのを里中くんとソファに並んで座って待つ。
「今回の事は僕の責任です」
さっきから何でだろう。里中くんは何も悪くないのに。
「日を改めて説明」と里中くんが話をし終える前に名前を呼ぶ声の方に駆けていく。
凌太の胸に飛び込むと子供のように声を上げて泣く私を優しく抱きしめてくれた。