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「――ハッ、悪いな。俺は誰とも付き合う気ねぇんだ。それに、あんたみたいなガキ臭い童貞野郎とは、端から無理。……おとといきやがれ、クソ野郎が」
吐き捨てるように言い放つと、理人は口角を歪めてニヤリと笑い、踵を返した。 背後で間宮が何かを必死に喚いている気配がしたが、そんなものは知ったことではない。あんな真っ直ぐな瞳で見つめられ続けるのは、今の自分には毒でしかなかった。
「あーあ、いい男だったのに。……間宮くん」
「……ケンジ、てめぇ……盗み聞きしてんじゃねえ、バカッ!」
「あだっ!」
屋上の扉を開け、階段を下りようとしたところで声をかけられ、理人はぎろりと睨みつけながら反射的に拳骨を食らわせた。
「いったー! 何するんだよ!?」
「それはこっちのセリフだ! いつから見てた!?」
「んー、『俺は誰とも付き合う気ねぇんだ』ってあたりかな。なんでフっちゃったんだよ。間宮くん、悪いやつじゃないよ? 僕の好みじゃないけどさ」
シレっと失礼なことをのたまう親友は、不思議そうに首を傾げている。 確かに、見た目通り悪い奴ではないのだろう。周囲の評判も決して悪くない。真っ直ぐで、正義感に溢れ、優しくて、誠実。若干暑苦しくて突っ走りやすい欠点を除けば、非の打ち所がない男だ。
顔も整っているから、その気になればすぐに彼女だってできるはずだ。何も、自分のような「男」に執着して、マイナーな茨の道に進まなくてもいい。
「……いいんだよ、あれで。あいつはまだ、引き返せる場所にいる。俺みたいなろくでなしと一緒にいていい奴じゃねえんだよ」
ぽつりと漏らした言葉に、ケンジは一瞬きょとんとした表情を浮かべたが、すぐに呆れたような溜息を吐いた。 そして、理人の頭をわしゃわしゃと遠慮なく撫でまわす。
「なっ、てめっ、何しやがるっ!」
「なにもそんなに自分を卑下しなくても。理人くんは十分すぎるほど格好いいし、ろくでなしなんかじゃないよ」
乱暴な仕草に眉を寄せて抗議したが、ケンジはそれを無視してさらに力を込めた。
「うるせえ。……住む世界が違いすぎるんだよ! あいつ、警察官を目指してるんだろ? だったらなおさら、俺なんかと付き合ったら、いずれそれが『足枷』になる時が来る。……そんな思いをさせるのは、二度とごめんだ」
あんな思いをするのは、自分一人でいい。 そう言いかけて、理人は言葉を飲み込み、唇を強く噛み締めた。
「理人くん……。ふはっ、優しいね、君は。でもさ、だったらそう言ってあげればよかったのに。わざわざ恨まれるような言い方して。……素直じゃないなぁ」
「うるせえな。ほっとけ!」
ケンジには、いつも肝心な部分を見透かされている気がする。それが無性に悔しくて、理人はフンッと鼻を鳴らした。
「でもまあ、卒業したら会うこともなくなるし、理人くんが後悔してないんならいいんじゃない?」
「後悔なんてするかよ。俺は誰とも付き合わねえって決めてるんだ」
「またまた~。そんなこと言っときながら、大学デビューした途端にイケメン捕まえてくるパターンじゃないの?」
「ハッ、セフレくらいなら作るかもしれないけど、そんな殊勝な真似はしねえよ」
そもそも、この壊された身体でまともな恋愛ができる気がしない。身体だけの、泥沼のような割り切った付き合いの方が、今の自分にはお似合いなのだ。
「あはは。理人くんらしいというか、何というか……。大学に行っても、たまには僕とも遊んでよね」
ケンジの言葉には、春の陽光に溶け込むような微かな寂寥が滲んでいたが、理人は気づかないふりを通した。 別にもう二度と会えなくなるわけじゃない。ただ、互いに進むべき道を進んでいくだけだ。
(――それでも、やっぱりちょっとだけ、名残惜しいけどな……)
喧騒の響く校舎を背景に、理人は心の中で小さく呟き、重い足取りを前へと進めた。