干潮。
ステージの水位が下がり、岸辺が広がった。
ミナミはブキを構えながら、少し後ろから恒とひろの動きを見ていた。
まだ慣れていないサーモンラン。
でも、ふたりの動きは迷いがなかった。
恒は、岸の左側でシャケを処理しながら、
味方の位置をちらちら確認している。
無駄がなく、でも急がない。
味方の動線を守るような動きだった。
ひろは、右側から金イクラを回収しながら、
軽やかにジャンプして岸を移動していた。
動きは早く、でも恒の位置を意識している。
あ、今の……恒先輩が少し下がったから、
ひろ先輩が前に出た。
言葉はないのに、動きが噛み合ってる。
ミナミは、シャケを処理しながら、
ふたりの連携を目で追っていた。
恒は、ひろが通るルートを自然に空けていて、
ひろは恒のカバーを受けながら、金イクラを投げていた。
これが“慣れてる”ってことなんだ。
どっちかが指示してるわけじゃないのに、
ちゃんと連携してる。
ミナミは、インクを回復しながら、
自分の立ち位置を少しだけ調整した。
私も、いつかあんなふうに動けるようになるのかな。
ふたりの間に、自然に入れるようになる日が来るのかな。
岸の奥で、恒がひろに何か短く言った。
ひろは、笑いながらうなずいていた。
ミナミは、その笑顔を見て、
次のシャケに向かってブキを構え直した。
今はまだ、観察するだけ。
でも、ちゃんと見ていれば、きっと何か掴める。
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