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日菜子が目を覚ましたのは、目覚まし時計よりも早かった。
(…ここ神崎家だった。 )
慣れない天井を見上げて、ゆっくりと現実を思い出す。
「よし……起きよう」
制服に着替えて部屋を出るとリビングから良い匂いがした。リビングに入るとエプロン姿の直人がいた。フライパンを片手に、卵を焼いている。
「おはよう」
「おはよ!早いね」
「うん…まだ慣れなくて早く起きちゃったみたい。」
そう答えると彼は口元を緩めた。
「昨日も言ったけど無理しなくて良いよ。しばらくは慣れないだろうから。 」
その直後ーー。
「……おはよう」
恒一さんが起きてきた。
朝食は、目玉焼きとトースト。特別なメニューではないのに3人で食べるとなると不思議と落ち着かなかった。
「日菜子ちゃん、今日一緒に学校行こ!」
直人が口いっぱいにパンを頬張りながら聞いてくる。
「えっ……良いの?」
「当然でしょ!同居人なのに違う時間に出るってのも違うと思うし」
「兄ちゃんも良いでしょ? 」
「…ああ、ただ注目はされるかもな」
恒一がお茶を飲みながら言う。
「確かに!日菜子ちゃん、それでも良い? 」
一瞬、戸惑ったが、イケメンから上目遣いで頼まれたら誰でも断れないわけで。
「うっ……うん…」
案の定、登校中から視線が集中した。
「えっ…神崎兄弟と一緒にいる?!」
「誰、あの子…」
小さな声が耳に刺さる。日菜子は思わず俯いてしまった。
その時、静かな声で恒一が言った。
「気にしなくて良い、君は何も悪くない。」
それに続いて、直人も言う。
「そうだよ!俺たちがちゃんと守る!」
「それに一緒に行こうって言ったのも俺だし」
2人の言う言葉は、不思議と安心した。
(…やっぱり2人とも優しいな)
学校に着くと、日菜子は少しだけ背筋を伸ばした。
教室に入った瞬間、日菜子は空気がいつもと違うことに気づいた。
「…ねぇ、やっぱあの子だよね」
「神崎兄弟と一緒にいた……」
ひそひそとした声。視線。明らかに多かった。
(やっぱり噂になっちゃうよね……)
席に着いても落ち着かなかった。落ち着くために本を読んでいたが、声や視線が気になって頭に入ってこない。その時、クラスメイトの橘さんが日菜子の机に近づいてきた。
「ねぇ、桜井さん」
「は、はい… 」
少し身構えると、橘さんが聞いてきた。
「神崎くん達と一緒に住んでるって本当? 」
「えっと…事情があって……」
言葉を選んでいる間に、周囲の視線がさらに集まっていることが分かった。
「同棲ってこと…?」
「は?…なんで?…」
その瞬間、日菜子の胸がきゅっと縮んだ。
「ち、違くて!その…親の都合で……」
周囲からの声や視線に圧倒され、声が小さくなり、途中で途切れてしまう。
ーーその時だった。
「日菜子ちゃん」
教室の扉から声が響いた。
直人だった。
「先生に呼ばれてるよ。今すぐ来て。」
突然の事に周囲がザワつく。
日菜子は一瞬戸惑ったが、立ち上がって彼の後ろを着いていった。
廊下にでて、階段のすぐ側で直人が立ち止まった。
「急にごめんね、日菜子ちゃん」
「い、いや……助かったよ、ありがとう。」
日菜子がそう言うと、後ろから声が響いた。
恒一だった。
「こんなに早く噂が出回るとはな」
「噂は放っておくのが1番だ。説明すればするほど、面白がるやつもいる。」
「……はい」
その答えに恒一は頷く。続いて直人が言った。
「日菜子ちゃん、噂なんて気にしなくていい良いよ。大丈夫。変なことを言ってきたら、俺が言い返すから! 」
「でしょ?兄ちゃん!」
「…ああ、そうだな」
その言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなった。
「…ありがとう…」
放課後、校門を出るとまだいくつかの視線は残っていた。でも、朝ほど怖くはない。
(…1人じゃない)
階段で話していた時、直人が出来るだけ一緒にいようと提案し、帰る時も一緒にいたからだ。
「ねぇ、日菜子ちゃん。噂、気になる?」
「…少しだけ。でも、」
日菜子は顔を上げ、小さく笑った。
「家に帰れば、普通の日常に戻るから」
それを聞いた恒一は一瞬だけ目を細め、静かに言った。
「それなら大丈夫だ。 」
噂は消えないかもしれない。
けれど、日菜子の中には確かに芽生え始めていた。
ーーここが自分の居場所だと。
第3話終わりです!どうでしたか?
感想などお待ちしてます!
お疲れ様でした!