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『 君は嫌いなの? 』
「 んー? 」
いつも笑顔の絶えない君は
今日も向日葵の様に明るい笑顔を向けて
『 俺が 』
「 急だね 」
柔く弧を描いた瞳のその先に降る雨は、
どのくらい強く打ち付けているんだろう。
君は何を見てきたんだろう、
なにをどのくらい焼き付けたんだろう。
『 璃冬の質問だよ、答えてよ 』
半ば強引な質問に、君はこう答える。
「 好きだよ、ちゃんと 」
君は何も答えてくれない。
教えてくれない。
嘘をつく時の笑顔だけは 昔から変わらない。
『 …そう 』
俺はそれくらいだったってだけ。
『 ならいいや 』
紫陽花に打ち付けて光る雨粒みたいに
君にどのくらい強く当たっても
君はそれを優しく受け止めるどころか
俺を余計綺麗に映してしまうんだから。
だから、いけなかったんだ。
優しすぎる君も
打ち付けすぎる雨も。
手首に巻いたテーピングを見つめながら
少しずつ動かしてみる。
『 …痛、 』
約3週間目の付き合いとなるこの痛みは
君を想う心に良く似ている。
「 映月! 」
『 璃冬 』
反射的に君の名を口遊んでしまう。
これは幼い頃からの付き合いのせいか
「 雨降るって、早く帰ろうよ 」
それとも
『 …や、俺今日帰れねぇわ 』
「 どうして? 」
『 鍵落として探してんの 』
「 まだまだ子供だね 」
嬉しそうに何かを含羞む君の笑顔に惹かれた
馬鹿らしい俺の心のせいか。
「 …あ、雨 」
ぱたた、と隙を与えず
強く打ち付け始めた雨から逸れるように
『 ちょっ、 』
君は俺の手を引きながら駆けていく。
「 走るぞ! 」
『 どこ行くんだよ…っ 』
引かれるがまま連れていかれた先は
「 ラブホ! 」
『 …馬鹿じゃねぇの 』
心底ずっと夢見てたあの展開。
「 嘘嘘、俺ん家だよ 」
悪戯した子供のように口角を上げては
俺の方に向き直って
「 映月はさ! 」
大きすぎる程の声量で問う。
「 ? 」
丁度、遅れてきた雷鳴で
君の声の全てがかき消される。
『 …ごめん、なんて? 』
君は少し悲しそうな顔をしたんだろうか。
そんな気がする。
「 んーん、なんでもない! 」
雨に打たれて冷え切る俺の手を握る
君の隠しきれない暖かさと、優しさと
細い手首からは考えられない強引さと
気遣いの良さ、そして万人受けな笑顔。
それのどれかに惹かれただけで
” 恋 ” だなんて言葉で表すのは野暮ったい。
多分、俺は君のことを。
『 好きだよ 』
「 …え? 」
心の底から、ずっと
「 君は嫌いなの? 」
ずっと、
君の笑った顔が好きだった。
コメント
1件
うわほんとに言葉遣いが好きです… 最高ですねほんとに…どストライク過ぎますね💘💘 参加して下さり有難う御座いました!!!!🙇♀️✨