「なあ、しょにだ」
「んー?」
「おれらってさ、キスしやすいと思わん?」
「……は?????????」
初兎は一瞬でフリーズした。コーラの缶を持ったまま、ストローを咥える寸前で固まる。
「いや、何いきなり?????」
「いやさ、名前。“いふ”と“しょう”じゃん?どっちもう行じゃん。“う”とか“ふ”とか。だから唇の動き的に、自然に近づきやすいっていうか~」
「なにその言語学的な誘惑!?!?」
「誘惑じゃないし。論理的に分析した結果だし」
「だからってなんで“キスしやすい”に着地するんだよ!?話飛びすぎじゃない!?お前だけ5駅先行ってんぞ!」
「いや~、でもさ、もし名前が“たかし”とか“けんた”とかだったら、たぶんおれこんなこと思わんかったんよ」
「待て、“けんた”に謝れ」
「けんた知らんし」
「……おい、今の発言、“けんた”界隈に怒られるぞ」
「なんの界隈だよ」
わちゃわちゃとツッコミ合いながらも、初兎は耳の先まで赤くなっている。
本人は必死に笑って誤魔化しているけど、いふはそれを見逃さない。
「……で?」
「ん?」
「つまり、したいの?」
「ん~~……まあ、口の形的に、自然だよね?」
「それ、また口実に使う気だろ」
「バレた?」
「バレバレだわ。てか、う行う行ってうるせぇな……」
「じゃあ試す?ほんとに“う行”はキスしやすいのかって」
「~~~~ッ!!!……この変な理屈で納得しそうな自分が嫌だ……」
でもなぜか、初兎は逃げなかった。
コーラのストローを机に置き、真っ赤な顔で、ちょっとだけ上を向く。
「……一回だけだからな。検証だし」
「了解、検証ね。しょう…」
「……いふ」
そんなラブコメみたいなやり取りのあと、部屋には小さくて甘い“検証音”が響いた。
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