テラーノベル
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海は迅に向かって言った。
「私と時間を稼いでくれ。皇后崎 」
「…」
迅は無視を決め込もうとしたが、海のあまりのしつこさに負けた。
二人で一斉に走りだし、休む間も無く攻撃を打ち込み続ける。
段々と体力も時間も血も消費されていくが一向に巨人がへばる様子はない。
「おい!何の時間稼ぎだ神示ッ!」
しびれを切らしたのか、迅は海へ怒鳴った。
海は少し四季の方を見たかと思うと、迅へ叫ぶ。
「皇后崎ッ!離れろ!」
迅は弾かれたように巨人の腕を足場にして跳ぶと、四季が何かを言いながら銃を血液で作っているのが目に入った。
けたたましい音と共に巨人の頭が大きくぶち抜かれ、巨人は再生すること無くどろどろと崩れ去っていく。
「屏風ヶ浦…?」
海が駆け寄ろうとすると、ローラースケートの音と何者かの弾んだ話し声が聞こえた。
草むらを掻き分ける音がしたと思うと出てきたのは二人の人影。
一人は無陀野、もう一人は長い黒髪をポニーテールにした一見女に見えない身長と体型(特に胸)をしている女_海の姉、守だった。
「うわぁ、二人共…大丈夫?」
四季と迅は目を丸くして守を見ながら二人揃って口を開いた。
「「…男?」」
「女だよッッッッ!」
両手で顔を覆って泣き崩れた守を可哀想なものを見るような目で眺める妹達。
終いには蹲ってぐすぐすと泣き始めた。
「なんで…おれ、おんななのに… 」
「話し方だろ。以上。仕事をしろ」
無慈悲にもそう切り捨てる無陀野をじとりと睨み付け、「あーそうですか」とズボンについた土を払い落とし、四季に向き直る。
四季は「動けねぇ…」とぐったりしている。
「脱力感で動けないだろ。あれだけ高濃度の血を打ち込んだから、血が足りないんだろう」
それこそ先生のように話す無陀野を尻目に四季は起き上がろうともがいている。
「無理するな。目も霞んでいるだろ」
優しさから出た言葉であることは守にも分かるのだが、言葉選びが悪すぎる。
案の定、もう残っていないであろう体力で「全然余裕!」と起き上がろうとしていた。
「四季君…だったっけ?出血多量でフラッフラだよね?動かない方いいよ」
肩に掛けている大きめのポシェットの中から絆創膏を取り出し、近くにいた海の手当てをしてから血溜まりの中で倒れている屏風浦の脈と息を確認し、無陀野に報告する。
屏風ヶ浦をひょいと持ち上げると守は四季に手を差し伸べて言った。
「歩ける?保健室つれてくよ」
その言葉を拒絶するようにぜえぜえと息を上げながらもう既に焦点の合っていない目で守を見据えて四季は言う。
「俺、より…屏風ヶ浦を見てくれよ…血ぃ使いすぎてると思う…から…俺は、後でいいから…」
守はこくりと頷き、「じゃあ、頑張って」とその場を去っていった。
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