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守は屏風ヶ浦を横抱きにして他のクラスメイトがいるであろう場所に向かっていた。
その 口には管の着いた輸血用のパックを咥えている。
管は屏風ヶ浦の腕に繋がっていた。
(手当てはしたし、輸血もしてる。後は起きるのを待つだけか…)
遠くに鉄柵が見え、何人かの人影も見えてきた。
(あの子達かな)
森の外側に出てくると、妹である海と同じ年頃の少年少女がぎょっとした顔でこちらを見ていた。
一度輸血パックを手に持ち、彼らに聞く。
「ここに、六歳くらいの女の子来てなかったかい?」
そう聞くと、そのうちの眼鏡の特徴的な少年_遊摺部従児が口を開いた。
「来ましたが、何か?」
その言葉に答えることはなく、屏風ヶ浦をゆっくり下ろすとすぅ、と息を吸う。
「桃華ァァァァ!」
大声でその名前を呼ぶと、近くの木の後ろから小学1年生くらいの少女と毛布を背に持たされた1.5mくらいの狼がひょこりと出てきた。
「呼んだ?」
とことこと屏風ヶ浦の方へ歩いていき、桃華と呼ばれた少女は脈を確認した後狼の背にあった毛布を屏風ヶ浦に掛けた。
「おねえちゃん、できたよ」
得意気にむふんと威張る桃華を撫で、狼に屏風ヶ浦に寄り添い、暖めるようお願いする。
狼は遠吠えを一度してから、頭を縦に振った。
桃華は心配そうに狼に言った。
「前鬼、ひとりでだいじょうぶ?」
大丈夫とでも言うように『わふん』と鳴いて桃華の頬に頭を擦り付ける。
守は少し笑ってから言った。
「じゃあ、ここでしばらく待機だね」
桃華はこくりと頷いてレジャーシートを敷き始めた。
おにぎりの入った大きな三段弁当をリュックから出し、こちらをぽかんとした顔で見つめている遊摺部達をちょいちょいと手招きした。
「…いっしょに、たべましょ」
三人が終わるまで時間もあるし腹が減っては戦など出来やしない。
そして、この子達は育ち盛りだ。食べられるときに食べておかねば。
「遠慮しないでいいよ」
そう言うやいなや、突如、誰かのお腹が鳴った。
音の出所を探してみると、起きたのか、屏風ヶ浦がこちらを見ていた。
まだ意識は貧血のせいでぽやぽやとはっきりしてはいないようで、今も前鬼の体にぐったりと身を預けている。
桃華はおにぎりを数個お弁当のふたにとり、小走りで屏風ヶ浦の方におにぎりを届けに行った。
「わ、私なんかに…」
「たべないと、なおらない…です!」
「むぐっ」
自分を卑下するような物言いをする屏風ヶ浦に桃華はおにぎりを口に突っ込んだ。
「さ、君たちも」
おにぎりを差し出すと四人も受け取って食べ始める。
「うめぇ!」
「これ、美味しいですね」
「最期の晩餐かもしれない…」
「ん、鮭入ってる!」
口々におにぎりを褒めちぎる彼らに笑みを溢しながら、桃華の方に目をやる。
美味しそうに食べる屏風ヶ浦に得意気にしている妹。
微笑ましくて、また口角が上がってしまう。
そんな時だった。
ローラースケートの滑る音が耳に入り、次に「姉さん!」と守を呼ぶ声が聞こえた。
『鬼ごっこ』をしている筈の妹達を不思議そうに見るが、その疑問はすぐに塗り替えられることになる。
「全員着替えろ。『職場体験』の時間だ」