テラーノベル
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ヘレーネ歴 20〷年
アルテア大陸の7つある国の1つ、アドネア国では1年に一度16歳になった少年少女を集め冒険者としての素質を測定する儀式があった。冒険者はとても人気の高い職業で、素質さえあればすぐにでも登録して働き始めるというのが一般的なことだった。一度なってしまえば基本的に食べるのにも困らないので、皆がなりたがるのも無理はない。一方で、素質無しとみなされたものは、家族からも国の人間からもいい扱いを受けることはない。尤も素質なしとみなされることは、ここ100年一度も無かったことからそれが異質であるということは言うまでもないだろう。
アドネア国郊外の小さな村に住む16歳になったばかりの少年、セリオは一人住む小屋の扉をあけながら教会に行くのをとても楽しみにしていた。なんせ物心つく頃から一人暮らしをしており、親の顔すら知らない彼にとっては村の人たちが親代わりであり、冒険者になれば彼らに恩返しができるのだ。教会への道をスキップするように歩きながら、冒険者になったらまずすることとこうなりたいと想像を膨らませていた。教会の前にはすでに何人かの子供たちとその親がいた、開くまでにはまだ時間がありそうだが、みんな笑顔を浮かべながら談笑していて、きっと待ち時間も気にならないくらい楽しみにしているのだろう。
「私は剣の使い手になりたい!」「僕は銃を使ってかっこよくモンスターを倒すんだ」などという声が聞こえて来る、僕だったらどうだろうかと悩んでいると、「セリオならアサシンとか似合いそうだよな」と近くにいたらしい幼馴染のラッセルに言われた。「アサシン?」「そうそう、お前たまに気配ないしピッタリだろう」「それラッセルが鈍感なだけじゃない?」そう返したとき、ラッセルの背中越しに一人の少女がこちらに近づいていることに気づいた。この村では見かけない顔だが知り合いでもいるのだろうか?そう考え彼女から視線を外すのと同時に扉が開き、雪崩れ込むように人が入っていく。その少女がこちらに手を伸ばしていたことには気づかないまま、僕も押し流されていた。
気が付けば「押さないでください~。順番に見ていくので、名前を呼ばれた人から前に来てくださ~い。」という何とも間の抜けた神父の声が聞こえて来るぐらいには波に流されてしまったらしい。仕方がないので、呼ばれるまでは近くの柱に寄り掛かることにした。ここからなら水晶のあたりがよく見える…あの神父流されてないか?あ、司祭に回収されて行った。本当にあの神父で大丈夫だろうか?そんな一抹の不安を感じている間にも一人また一人と呼ばれ素質ありと診断されていく。「やったー!」「さすが俺の子だ!」などという声がそこらじゅうから聞こえてきていて、自分のことではないが心が温まるのを感じる。
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