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ドンという騒がしい音に、リオは目を覚ました。一瞬、自分がどこにいるのかわからなくて、ぼんやりと天井を見つめる。次に先ほどの音と「おいっ、離れろ!」という声に、そっと頭を持ち上げて目を見張った。 ベッドの周りで、ギデオンがアンに追いかけられて逃げている。先ほどのドンという音は、逃げ回るギデオンが、ブーツで床を踏みならす音だった。
リオはアンに向かって声を出す。
「アン、やめろ」
「リオ!この犬はなんだっ?」
「俺の友だち。ほら、おいでアン」
リオはゆっくりと身体を起こして、ベッドから降りた。リオの足元にアンが走り寄り、身体をすりつける。小さな身体を抱き上げてベッドに座ると、膝に乗せてリオは顔を上げて笑った。
「ふふっ、ギデオンって、犬が怖いんだ?」
「怖くはない!そいつがしつこく寄ってくるから離れようとしていただけだ」
「へぇ…珍しいね」
「なにがだ」
「この子、俺以外には懐かないんだけど。ギデオンのことは気に入ったんだな、アン」
「アン!」と鳴いて、アンがギデオンに顔を向ける。
ギデオンは渋い顔でリオとアンから距離を取ると、顎に拳を当てて咳払いをした。
「ンンッ、ところで体調はどうだ?」
「体調?…あ、そうだった。ギデオン、助けてくれてありがとう」
リオは、ギデオンにぺこりと頭を下げる。あそこにギデオンが現れたことに驚いたけど、来てくれて良かった。心底感謝している。
そう言うと、ギデオンは冷たく見える目を、ほんの僅かに細めた。
「俺は元々、ここの州に住んでいる。あの店によく働く少年がいると噂を聞いてな、リオかもしれないと様子を見に行ったのだ」
「ふーん。俺に会いたかったの?てか、髪色を変えてたのによくわかったね」
ギデオンがベッドに近づき腕を伸ばす。そしてリオの髪をひと房、摘んで持ち上げた。
「俺の髪に似ているな。中々似合うぞ」
「どうも…。それよりも質問の答え」
「ああ、なぜわかったかだったか。赤目の者は数多いるが、おまえほど美しい赤い瞳はいないからな。すぐに気づいた」
「それは…どうも」
リオは俯いてもごもごと礼を言う。
金色の髪や赤い目を褒められることはよくあるけど、社交辞令みたいなもんだと思っていた。しかし言葉を飾らないギデオンが言うと、すごく特別な言葉のように聞こえる。だから珍しくも照れてしまったのだ。
「ところでなぜ染めているのだ?」
ギデオンが手を下ろし、一旦躊躇して、アンの頭を撫で始める。アンは気持ちよさそうに鼻を鳴らして目を閉じている。
リオは少し迷ったけど、ギデオンには誤魔化しが効かないと思い、正直に話した。
隣の州で、なぜかお尋ね者になって捕まりそうだったから、髪を染めて検問を通り抜けたこと。でもなぜお尋ね者になったのかわからないこと。何も違法なことはしていないことなどを。