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お久しぶりです。翠色です。私情で休んでいましたが、少し落ち着いたので、休んでいた期間にずっと構成を練っていたtyhr小説を投下します。fwhrじゃなくてすみません。あとチャットじゃなくてすみません。新天地です
nmmn注意
⚠︎︎捏造設定あり
【tyhr】
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
僕は恋愛ができない。
恋愛というか、人に好意を向けること自体、幼少期の頃から苦手だ。
成熟はおろか、気になる人などできたこともなかった。 どうして自分はこんなにも恋というものが苦手なのか、分からない。
それはきっと、あの夢を見るようになってからだろうけど。
「甲斐田くーん」
ろふまお塾の収録後、そそくさと帰ろうとした僕の名前を、彼は呼んだ。
「もちさん?どうしたんすか」
「甲斐田くんに頼みがあって」
なんと。あのもちさんが僕に頼み事を?一体なんだろう。音楽関係だろうか、ろふまおのことだろうか。先輩である彼に頼られることは、滅多にない。僕は少し浮かれながらも、大人っぽく返事をした。
「なんでも手伝いますよ」
「あー、えっとね」
なにやらモジモジとし始めた。言いにくいことなのだろうか。耳を澄ませて、彼の言葉を待った。
「勉強を手伝ってほしいんですけど」
「べ、勉強……?」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
『カチ、カチ、カチ』
楽屋の少し高級そうな時計が、小刻みに秒針で音を鳴らしている。
大先輩と楽屋で二人きり。なんでこんなことになったのか。彼が勉強を手伝って欲しいと言い出したからだ。どうやら期末試験が近いらしい。
思ってもみないことを言われて、なんとも高校生らしいお願いだなぁと、僕は少し感動した。
普段の彼は、まるで大人のように振る舞い、時に年齢を感じさせない。年月で言えば、きっと僕よりも長く生きているのだろう。
だから、不思議だらけの彼を少しからかってみたくなった。
「もちさん何年十六歳やってるんすか〜。
僕に勉強教えて欲しいだなんて、明日隕石でも落ちるんじゃないですか?」
「ああ〜、落ちるかもね。あなたの家に」
「怖!」
「はぁ……」
彼が大きく溜め息を吐く。
「そりゃ、各教科の先生も毎年同じな訳じゃないし、教科書の内容も時代と共に変わっていくものなんだよ」
「もちさん深いこと言うよね。僕、年上と話してるみたいって、いつも思ってる」
「割と当たり前のこと言っただけだよ…。それと、僕はずっと君の年下ですよ。ずっと」
何気なく言った言葉に、釘を刺すような言葉が返ってきて少し慄いた。
「んー……」
「あ、もちさん。そこ違います」
「え?あ、ほんとだ」
「でもこれ『違う』んじゃなくて『惜しい』だから」
「細かくないすか?」
そんな他愛のない会話をして、何時間経ったのだろうか。この人と話していると、いつも時間を忘れてしまう。
「もちさんと話してると、ついつい時間忘れちゃうんですよね。不思議です」
思ったことを、そのまま口に出してみた。
「僕といると時間の感覚が狂っちゃうのかもね。それよく言われるよ」
彼は真顔でそう答えた。ずいぶん意味深なことを言われたな。
でも、事実だ。彼と話している時は、自分の素をさらけ出せる。心地よい存在だ。
「ふあ〜……。それあとどれくらいで終わります…?」
「眠いの?」
「いや〜……」
……まずい、眠気が襲ってきた。
「…もちさん、僕」
「ん、なに」
「もちさんと一緒だと、落ち着きます」
「急に何?キモイって。勤勉学生の邪魔しないでください、大人」
「クソガキ……」
眠気で頭が働かなくなってきた。僕はなにか彼に言いたくなっている。自分でも何を伝えたいのか分からないけど、閉じそうな瞼を開けて、声を出そうとした。
「でも、ほんと、ですよ…」
「もちさん、僕は……」
「………」
「寝やがった……」
「…せっかく誘ったのにさぁ……」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「うっ……ぁ」
「ぐすっ、ぅあ、いや……」
「たす、けて……くるし…ぃ」
あぁ、またこの夢か。 一体何度目だろう。
鮮明に聞こえる。まるでその場に居るかのような、現実のような、僕の呻く声、喘ぐ声、泣く声。そして、時折と聞こえる、肌が強くぶつかり合う音。汗の滴りさえも冷たさを感じる。
自分が犯される夢を初めて見たのは、漢字の読み書きが完璧にこなせるようになった頃。
あの日の朝は最悪だった。目が覚めたら自室の布団の上だったけれど、身体中が汗だくだった。自分一人では到底出ない量の汗も、たまらなく気持ちが悪かった。
思えば、あの日からだ。僕が誰にも恋をしなくなったのは 。
物心付いていない頃は 、よく友達の女の子とままごとで夫婦ごっこをしたり、みんなで恋バナをしたりして遊んでいたのに。
あんな夢さえ見なければ。
どうして、それを鮮明に覚えているのだろう。
どうして、あんな夢に僕は囚われているんだ。
きっとあまりにも現実的だから、そう言い訳をしているけど、僕はこの夢を見た時、毎回と言っていいほどいやらしい気持ちになってしまう。
そんな自分も嫌だ。だって、自分が知らない誰かに犯されている夢だ。でも、自分でも変だと思うほど、背徳感さえも快感になっていた。
「ぁ、うぅッいや”……」
激しく揺さぶられる。
いつも夢に出てくる、僕を犯している男の顔はよく見えない。
なんでもいい、一刻も早く夢から覚めたい。
僕はいつか、誰かの恨みでも買ったのだろう。それでそいつが、僕にこんな悪夢を見るように呪いでもかけたに違いない。
僕を犯しているのは一体誰なんだ。
どうして僕に。どうして、僕を────
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「ーくん、いだ、くん」
「んん……」
僕の名前を呼ぶ彼の声が聞こえる。
「甲斐田くん、起きなよ」
「ん、もちさん……?」
「いつまで寝てんの。僕もう勉強終わったぞ」
『ガタッ』
思わず、体を起こして時計を見た。
「11時…!!?」
「そうですよ。あんた高校生の門限とか知らないのか」
「うがぁ〜、すいません!送ります!」
「いや、いいよ。何年十六歳やってると思ってるの」
頼み事をされていたことも忘れて寝てしまった。先輩とはいえ、 高校生である彼をこんな時間まで居させてしまったことに深く後悔した。
「あ、あと甲斐田くん」
「はい?」
「うなされてたけど、どうしたの?悪夢でも見てた?」
「えっ!」
心配そうに、彼は僕の顔を覗き込んだ。
“ドキッ……”
なんだろうか、この感情は。きっと、うなされていることを知られた焦りからではない。
なんか、もっとこう、複雑な……。
「甲斐田くん?大丈夫?僕の方こそ、送ってあげようか」
「いやっ、それはさすがに…」
彼は相変わらず優しかった。いじりさえされるが、大人である僕のことも気遣ってくれることが多い。自分も見習うことが多かった。
しかし、高校生に介抱させるなんて大人としての権限が……。
彼と事務所の出入口まで歩き、そこで別れた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
二度目に彼と会ったのは、あの日から四日後だった。今日はろふまお塾の収録ではなく、同期との企画の打ち合わせで事務所に立ち寄っていた。
午後にその打ち合わせが終わり、ろふまお塾の楽屋に入ったところで偶然彼と再会した。
「あ、甲斐田くん」
「あれ、もちさん!!?学校終わったんすか?」
「うん。何しにきたの?」
「えぇっと、ろふまおの企画の資料を忘れてたので、回収しに来たんすよ。もちさんこそ、なんで放課後に?」
「ん〜。っと」
彼のことはミステリアスな人間だと思っているが、意図の読めない行動をする時は、一層ミステリアスで不思議に見える。怖さすら感じるかもしれない。
「甲斐田くんに会えると思ったから」
「え」
「って言ったら、どうしますか?」
「ど、どうするって…。どうもしない…」
「そっか」
そう言って微笑んだ彼は、何を考えているのか分からなかった。どういう意味で言ったのだろう。僕をからかっただけかな。
彼は僕が思っているよりも、遥かにミステリアスな人間かもしれない。
「よく分かんないすけど、テスト前なんでしょ。真面目に勉強してくださいね?」
「うん。明日だよ」
「はあ!!!??いやいや、もちさんホントなんで事務所で油売ってんすか!!」
「うるせぇ」
やっぱり長年十六歳繰り返して、テスト余裕ぶっこいてんじゃねーかこのガキは……。
「まあいいんですよ」
「なにが!」
「甲斐田くんが教えてくれるので。勉強」
「は?」
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また勉強を教える羽目になってしまった。
「僕の人件費は零円です!良かったですね無料で授業が受けられて!」
「今度なにか奢ってあげるよ」
「いや、高校生に奢られるのは……!」
「いつまでも腰が低いよね甲斐田くんって」
こんな時間から勉強を初めて、またこの間みたくならないだろうか。僕は定期的に、楽屋の時計を確認しながら過ごした。
「もちさんって、几帳面だよねぇ」
彼が開いていた教科書には、呪文のような数式が並んでいた。隣に置いているノートに目をやれば、彼らしい綺麗なまとめ方で、板書も完璧に、多彩なマーカーなども上手く使い分けられた見やすいノートだった。
「きっとノートのまとめ方に関しては、プロ並みですよ。僕」
「さすが永遠の十六歳……」
そんなこんな話していると、幾つか僕の中で疑問が湧いてくる。
どうしてテスト前の大事な期間に、僕を頼るのだろう。テスト前日まで勉強を教えて欲しいだなんて、頼まれるとも思わなかったし。
それに、さっき彼が言っていた『甲斐田くんに会えると思ったから』という言葉も、やけに引っかかる。どうして、そんなこと。
なぜ彼の一言一句が気にかかるのか、それは僕が心の奥で、期待しているからだった。
「もちさん、なんで僕に会えると思ったの。……もちさんが僕に会いたかったって、勝手に思っててもいい?」
「うん。思っていいよ。だって合ってるし」
「ぇ…」
「それは、どういう……」
「そのまんまの、意味だけど」
「それは…………」
なんだか、眠たくなってきたな…。
「…………もちさん、好き」
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2話に続く。