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第2話
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
恋愛が苦手だった僕。そんな僕が、唯一好きになれた人。この人なら、僕は好きになれると思えた人。あなたとずっと、くだらない話をして笑い合いたい。
「んぅ……」
僕は眠い目を擦って、重たい顔を起こした。
また犯される夢を見て、寝起きは最悪だった が、それを上回る最悪な状況に陥っていた。
「もちさん……?」
楽屋に彼の姿が無かったのだ────。
「はぁッ、はッ……」
僕は楽屋を飛び出て、事務所の廊下を走り回って彼を探した。
まずいまずいまずい!
絶対に、引かれた。失望された…。
「もちさん…!もちさん、どこ!?」
事務所から出れば、ちょうど日が沈む頃だった。街灯も明かりを宿しており、周りには蛾が群がっていた。
あぁ、きっともう家に帰ったのだろう。
気味悪がられたんだ。僕と居たくなかったんだ。
そんな、悪い思いつきばかりが僕の頭を支配した。
諦めて、荷物をまとめて家に帰ることにした。帰路でグルグルと思考を巡らせる。頭の中で開かれる一人反省会。今回のは、大反省しなければ。 本当に、最悪だ。
眠気のせいで正常な判断ができず、何故か脳が溶けてしまいそうだった。そのせいで、彼に一方的に気持ちをぶつけたまま、彼の勉強を放棄したまま、眠ってしまった。
「明日、期末試験なんだっけ…。悪いこと、したな……。嫌われたなぁ、これ…」
次会った時、謝らなくてはいけないな。
次、会えるのかも、話せるのかも分からないけれど。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
翌日。僕はいつも通り配信をしていた。
配信をしている時は、疲れを隠さなくてはいけない。たとえ犯される夢を見ていようと。
犯される夢を見ることはもちろん死ぬほど嫌だが、なにが一番嫌なのかといえば、起床時に、まるで行為後かのような疲労感に見舞われる点だ。
夢の筈なのに、どうしてこんなにも身体中が痛いのか。寝た筈なのに、疲れが取れず、疲れのせいでまた眠気がくる。
この悪循環を繰り返している。それは最近もっと酷くなった。
思えば、酷くなったのは彼のことが気になり初めてからだな…。
そう頭に浮かび、彼の顔も頭に浮かぶ。
嗚呼、彼のことなど思い出しなんかしたくなかった。
忘れたい、忘れたい。恥ずかしい記憶。
“甲斐田、最近ボーっとしてるけど大丈夫か?”
“ちゃんと眠れてる?”
“無理しないでね〜”
「えー、そうかな?笑。ありがとうね〜」
僕のリスナーは良い人ばかりだ。心配させない為にも、僕がしっかりしないと。
────「ふぅ…」
配信が終わり、一息つく。体が少し硬くなってしまっていたもので、軽めのストレッチをした。目も少し乾燥気味だ。
何時間くらい配信していたのだろうか。
壁にかかってある時計に目をやった。
「あ」
そういえば、長年使っていた時計の秒針が止まって、壊れてしまっていたんだ。すっかり忘れていた。
これを機に新しい時計に変えてしまおうか。
僕は買い出しに行く準備をした。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
外は昼頃だった。散歩をする老夫婦や、横断歩道で手を挙げている、遠足をしている園児たち。今日はやけに日が暖かかった。
こんなにも明るく平和な街の中、まだ胸のざわつきが取れない僕は、少しぎこちない足の動きでショッピングモールに向かっていた。
あともう少しでショッピングモールに着く。
そんな時、突然目の前に誰かが立ち塞がり、僕の行方を阻んだ。
「誰です、…か……って、もちさん!!?」
「そうだよ」
僕の目の前に現れたのは、他の誰でもない、彼であった。
「なんで、もちさんがこんなとこに……!?今日は期末試験じゃなかったんすか!!?」
「あぁ、テストね。抜け出してきた」
「!!!!!!????」
なに、なに、なんて言った。この人。抜け出した?期末試験を?大事なテストを放棄したってこと?なんでそんなこと?そしてなんで僕の目の前にいる?
数々の疑問が飛び出てきて、一気に処理することができず、固まって声も出せない僕を、彼はいつも通りの表情で見つめてくる。
「あぁ、君が疑問に思ってること分かるよ。顔に書いてある。全部」
「もちさん、なんで……?」
「なんで、ってさぁ…」
彼は頭をゆっくりとかいて、呆れたような顔をした。僕は何か、彼にテストが出来なくなるほどのことをしたのだろうか…。
「甲斐田くんに「好き」なんて告白されたら、テストなんて集中できるわけ無かったよ」
「な……」
なんだって???
「突然僕に告白してきたと思ったら説明も無しに寝やがって。そりゃ気になるよ。テストなんて一問も解けなかった」
「ご、ごめんっ…なさい…ほんとに」
「あ〜、違う違う。謝って欲しいんじゃなくってさ 」
彼は少し焦っているようだった。
学生である彼のテスト勉強を手伝いたかったのに、手伝うどころか、放棄させてしまうなんて。やっぱり告白するんじゃなかったと、心の奥深くで後悔した。
「僕の返事も聞いて欲しい、ってこと」
「もちさんの、返事…?」
そんなの、そんなの…無理だ…。
どうして目の前で聞かなくてはいけないんだ。分かりきったことを。
「やめてくださいっ、良いです、返事なんて…!!」
「えっ」
僕は涙目になりながらも、首を横に振った。
一方的に彼に思いを伝え、返事は要らないなどあまりにも身勝手だと、我ながら痛感してしまう。
「そ、それはおかしいよ。君は僕の気持ちまで考えてない!」
「ぅう、…ごめっ」
その通りだ。どうして僕は高校生にこんなことを言わせてしまっているのだろう。
「いい!君の気持ちなんて考えない。だって君は僕の気持ちを考慮しないんだ。僕だって考慮しないよ」
「もちさん…」
「なに」
「僕のこと、嫌いになっても、 友達でいてほしい…..」
なんて我儘なお願いなんだ。高校生相手に恥ずかしい。この場から逃げ出したい。
どうして僕は、あの時彼に告白してしまったのだろう。
でも、人を好きになれない僕が、唯一好きになった人。
彼なら、この身を委ねても、何をされても良いと思えた人だった。
「嫌だ」
だから、何も聞きたくなかった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
3話に続く。
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