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夜風がふわりと吹いた。
提灯の灯りがゆらゆら揺れて、どこか浮かれたように照らす夏祭りの会場。
人々の笑い声や、屋台の呼び込み、綿あめの甘い香りが漂っている。
「…あー、なんか、祭りって久しぶりだな。」
浴衣姿の若井が、肩をすくめながら周りを見渡す。
藍色のシンプルな柄が彼の落ち着いた雰囲気にぴったりで、髪もきっちり整えてあって、やたら色気がある。
その横で、元貴はぼうっとその姿を見ていた。
浴衣姿の若井なんて初めて見た――いや、こんなに艶っぽく見えるとは。
「なに?」
視線に気づいたのか、若井がちらりと元貴を見る。
「いや…」
元貴は軽く笑って、でもその目は離せなかった。
「滉斗、めっちゃそそる。…なんか、やばい。」
「はあ?」
一瞬驚いたように目を丸くした若井だったが、すぐにふっと笑って、
「お前もな。…帯、そんなにゆるく締めて、誘ってんのかと思ったわ。」
耳元でさらっと囁かれて、今度は元貴がドキリとする。
*
ヨーヨー釣りに挑戦して、若井は3個も釣り上げた。
元貴は最初の1個目で糸がぷつんと切れて、子どもみたいに悔しそうに唇を尖らせる。
「俺、下手かも…」
「なに言ってんだよ。ほら、俺の一個やるよ。」
「え、マジで?…じゃあ、ご褒美も一緒に欲しいかも。」
「なに、それ。」
「チュー。」
「バカ。」
照れ笑いしながら、でも若井は元貴の浴衣の袖を引っ張った。
たこ焼きを買って2人で半分こ。
元貴が食べようと口を開けた瞬間、若井が「あっつ!」と声を上げ、元貴が吹き出す。
「おまえ、焦ってんのか?」
「うるせー、猫舌なんだよ。」
夜は進み、空に花火が打ち上がり始めた。
ドン、と低く鳴って、火花が大輪の華を描く。
人ごみの中、元貴が若井の手を引いた。
「こっち。…ちょっとだけ、ふたりきりになりたい。」
向かった先は、神社の境内。
人がいない奥の影に隠れるようにして、灯りの届かない場所で2人は並んで腰を下ろした。
花火の音だけが遠く響く。
若井が隣で静かに息をしている。
「滉斗さ、今日ずっと俺のこと見てたよね。」
「…ああ、見てた。浴衣、似合ってたから。あと、色っぽくて…」
ふと、元貴が身を寄せた。
「それだけ?」
「他に?」
「…たとえば、今すぐ触れたい、とか。」
「…言わせるなよ、バカ。」
吐息が近づいた。
夜の静寂と、遠くの花火と、微かな虫の声。
全てを忘れるように、2人はそっと唇を重ねた。
「ん…っ…」
神社の境内、誰も来ない裏手の石畳。
赤く照らされた空の下、2人の影が静かに重なっていた。
「……元貴」
若井が名前を呼ぶ声が、少し震えている。
花火の明かりが届くたびに、浴衣の乱れた裾がほんのりと照らされては闇に溶けた。
「…滉斗、我慢しなくていいよ。」
元貴がそっと顔を近づける。耳元に唇を寄せて囁いた。
「声、出してもいい。…花火で、聞こえないから。」
ドン――
空にまた大輪の花が咲く。
その爆音にかき消されるように、若井の喉から甘い吐息が漏れた。
「んっ…あ、元貴……っ、だめ、そこ……」
元貴の指先が、そっと浴衣の隙間から肌に触れた。
首筋、鎖骨、そして――胸の下まで滑るように。
若井の肌はすでに熱を帯びていて、触れるたびにびくびくと跳ねた。
「やっぱさ、今日の滉斗…ほんとエロい。」
「っ……お前が言うなよ、そんな、目で……見てくるから……」
唇が触れ、舌が絡み合う。
花火の爆音がまた空を揺らすたび、2人の乱れた息づかいがその音に紛れて消えていく。
元貴の繊細な指先が、若井の熱を包み込む。
「…ここ、気持ちいい?」
「っ、や…元貴……イく、かも……!」
もう帯は解けかけて、浴衣の前ははだけ、若井の身体が露わになる。
そのまま元貴は優しく、けれど確実に深く若井を刺激していく。
「……ああっ、んっ……もっと……!」
「滉斗…俺も、我慢できない……っ」
ドンッ――
空に咲く大輪。
夜空を彩る一瞬の光の中、誰にも見られない影が、激しく求め合っていた。
互いの熱を手で扱き合い、体温と吐息が混ざっていく。
「滉斗…好きだよ……!」
「俺も……元貴、…大好き……っ!!」
最高潮の花火が夜空に咲いた瞬間、
2人は同時に、果てた――
その余韻の中、熱く乱れた息だけが静かに残る。
2人は、しばらくそのまま、寄り添っていた。