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【フランスside】
ツー、ツー…
「…切れてる」
スマホをソファに捨てて、手探りで部屋の明かりをつける。目に光が入ってくるのと一緒に、いろんな考えが頭のなかを照らしていく。
…もし、こうだったら
さっきまで無音だったのが嘘みたいに、自分の息の音で、心臓の音で、周りの音が全く聞こえない。
シャワーを浴びれてないなとか、夕食の準備もできてないなとか、まともな顔してないなとか…
やりたかったことが何個も出てきたけれど、今はただ、玄関の方に行きたい。
ここから玄関までは一直線のはずなのに、随分と長い道のりに感じて、やっとの思いで取っ手を掴んで押した瞬間に、一気に僕の中で世界が動き出した。
ガチャ…
「…っ、」
「…こんばんは。随分と面白い顔をしてますね?」
皮肉混じりに笑う、目の前の人物。
僕は、それをよく知っている。
…皮肉屋で、自称紳士で、調子いいくせに、大事なところで自分を大事にしない。
そんな…
イギリス
「なん…で、」
「驚きすぎじゃありませんか?まあ驚かせにいったのは事実ですけど」
「…予約、って、それ?」
「ん、あぁそうですよ。」バサッ
「持ってくるまでの視線が痛いこと痛いこと」
大変でしたよ、というイギリスの手には、本数の数え切れないバラの花束が抱えられていた。
色々と思考が追いつかないが、どうやらこの前の予約というのはこのバラを注文するための花屋の予約だったらしい。
「店側の手間を考えてキリ良く100にしてしまったんですが…意味合い的には99の方が合いそうなので、1本と99本として送りますね」
「…あり、がとう……じゃなくて!」
靴箱の上に受け取ったバラを置いて、そもそもの疑問をイギリスに投げかけた。まだ全然落ち着いてられない。
だって
ここまで、期待させたんだから。
…
「…イギリス、は」
「あぁ、…言わせてもらえますか?」
「…うん」
「フランス」
「今日まで、ずっと。 私は貴方のことが好きでした」
「これからも…いえ、これからは、貴方の横に、恋人として立たせてくれませんか?」
「…」
「……フランス、?」
言葉で聞くと、ほんの一瞬。
ほんの、ただこれだけの、瞬間。
この言葉を期待して…僕は
「っ、ずっと」
「一言じゃ足りないぐらい、ずーっと、君の隣に居続けて。」
「収拾のつかない感情に、何度も何度も、ここで終わりにしておこうとか、これ以上はやめておこうとかって、綺麗なものは遠くにあるから綺麗なんだって…っ、」
「…はい」
「何度も何度も言い聞かせてきて…なのに、なのにっ、」
「…」
「君からそんなこと、言われちゃうんじゃ…グスッ」
「とどめとく理由が、なくなっちゃうじゃんか…」
「…フフ」
イギリスが優しく手を回してくる。
その所作も、息遣いも、落ち着いた態度とは裏腹に早い鼓動も、全部が全部愛おしく感じて。
ハグなんか慣れているはずなのに、全くもっておぼつかない手つきでイギリスを抱き止めた。
「ええ、ええ。きっといいんですよそれで。」
「確かに、綺麗なものは遠くにあるから綺麗…なんて、よく言いますけど」
「綺麗ならそばに置きたいし、近くにあってなお綺麗なものが、本当に綺麗なものなんだと私は思いますよ」
「〜っ、…君らしいね」
…あぁ、駄目だな本当に
もし世界がいつか終わるのであれば、今この瞬間に終わって欲しい。
そう思えてしまうぐらい、満ち足りている。
僕の、僕だけの世界の真ん中。
もしかしたら世界は、
彼と…僕とを中心に、回っているのかも。
なんてね。