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「なんでそんなこと? 私が直樹に騙されていたとしても、雪香には関係ないじゃない」

「関係なくないよ。沙雪が不幸な結婚したら私も悲しいし」

「嘘! 本当に私の為を思ってるなら偽名なんて使わなかったでしょ? 誤魔化さないで」


矛盾点をつくと雪香は言葉に詰まった。


「……本当は、沙雪に感謝されたかったから。私たちずっと離れていたし、再会したあとも沙雪は私を避けているみたいだったから。良いことをすれば、喜んでくれて昔みたいに仲良くなれると思ったの」

「良いことって、直樹を取るのが?」

「だって直樹とは別れた方がいいから。私はもう自棄になっていて好きな人と結婚出来ないと思い込んでたの。そんなとき直樹にプロポーズされて……結婚すれば家を出られるし沙雪には感謝されるし丁度よいと思った」


私は唖然としてしまった。


「本気でそう思ったの? 感謝なんてする訳ないじゃない。だって私はその時直樹の酷さを知らなくて、ただ直樹と雪香に裏切られたのだと思ったんだから。雪香に対する感情は憎しみだけだった」


もし本当に私の為を思うのなら、回りくどいことはせずに、はっきりと直樹の悪行を教えてくれたら良かったのだ。そうすれば……恋人の本性を知り傷つくだろうけど、ここまでこじれなかったのに。


「あの時は本気で思ったの。でも実際は沙雪と更に距離が出来てしまった。沙雪はいつの間にか引っ越ししていて、連絡すらくれなくなったでしょ? どうすればいいのか分からなくなって……その頃に三神さんと出会ったの」


ようやく今回の件に繋がったと、私は居住まいをただした。


「その話は聞いた。三神さんも騙したんだってね」

「うん。彼は私を沙雪だと勘違いして文句を言って来た。驚いたけど私がなんとかしようとしたの」

「どうして、そんなことを?」

「初めはただの思いつきだった。三神さんの件を解決したら沙雪に感謝されると思ったし、仲直りのきっかけになると思った」

「仲直りって……雪香の中では喧嘩になってたんだ」


そんな軽いものでは、決してないのに。


「沙雪が直樹のことで深く傷付いたとは思ってなかったけど、私に対して怒っているのは感じてたの。初めは、名前を使っていたのがばれたのかと思ってビクビクしてたけど、違うみたいだし……沙雪と縁が切れてしまうのは嫌で不安になったの」


なぜ私と縁が切れると不安になるのだろう。元々、十年も会ってなかった絆の薄い私達なのに。


「それで、雪香は具体的には何をしたの?」

「それは……初めは適当に話を聞いて宥めれば大丈夫だと思ってたの。私、いろんな人と付き合って経験を積んだつもりになってたからなんとかなると思った」

「適当にって、雪香考えが無さ過ぎるよ」


呆れて呟くと、雪香は顔を歪め頷いた。


「沙雪の言うとおり、三神さんは普通じゃなかった。私の話なんて聞かないし、しつこく付きまとわれるようになって怖くなった……見た目は本当に普通だったから彼の異常性に気付かなかったの」

「それは分るけど」


私も三神さんの見かけに騙されたから、その点は雪香を非難出来ない。


「危険に気付いてすぐに、私は沙雪じゃないことを彼に伝えたの。それで退いてくれると思ったんだけど、実際は三神さんを余計に怒らせてしまった」

「当然でしょ。散々騙したあとに本当は別人でしたって言うなんて……余計にこじれるって本当に分からなかったの?」


前から思っていたけれど、雪香は人の気持ちを考えたりしないのだろうか。

今だって自分が怖くなったから私を庇うのを止めたと悪気無く口にした。


「その時は分からなかった。でも三神さんをなんとかしないとって焦ったの」

「……そう」


雪香は想像力が足りないのかもしれない。


自分の行動の結果どうなるのかを、予想出来ないように感じる。

だからその場の感情にまかせ、私からすれば信じられないような行動に出る。


「蓮には相談出来なかった。突然決まった直樹との結婚にもいい顔をしていなくて、そんなときに三神さんの話をしたら凄く怒ると思った。それに遊んでいたことも全て調べられて大事になる気がした」


蓮に関しては深く考えられるんだ……複雑な思いで雪香を見つめる。


「私は困って、遊んでいた時に知り合った海藤にお願いしたの。三神さんを追い払って二度と近付けないようにして欲しいって」

「え? 二度と近付けないようにって……そんなふうに頼んだの?!」


私が驚きの声を上げるのを、雪香は不思議そうに見ている。


「どうしたの?」


私の反応の意味が、本当に分からないのだ。


「どうして海藤にそんなことを…… 海藤こそ危険な相手だと思わなかったの? 大きな揉め事にしたくなかったんじゃないの? 雪香は何もされなかった?」


海藤がただで頼み事を聞くとは思えない。


「海藤は普通じゃないとは思ったけど、だからこそ三神さんを追い払うには最適だった。実際に海藤はすぐに動いてくれて、三神さんは二度と私の前には現れなかったから」

「海藤は三神さんに何したの?」

「具体的には聞いてないけど……お金を渡したのと、それから少し脅しただけだって言ってた」


そんな訳ない。三神さんはきっと海藤に相当酷いことをされた。


だからこそ、あれほどの恨みを持っていた……眩暈がする。


「……雪香は海藤に何か要求されたりしなかった?」

「実は……頼みを聞いて貰うお礼にお金を払う約束をしたの」

「そのお金っていくら払う約束だったの?」


嫌な予感でいっぱいになりながら聞くと、雪香は小さなため息の後に答えた。


「二百万円」


悪い予想は当たってしまった。


「雪香はそのお金をどうするつもりだったの?」

「ちゃんと払うつもりだったよ。それ位のお金はなんとかなりそうだったから」

「でも実際は払ってないよね? 海藤は私のところに取り立てに来たんだから!」


あの時海藤を恐れるあまり、詳しい事情は聞きだせなかった。裕福な雪香がなぜ借金なんてしたのか不思議だったけれど、まさか私が関係しているなんて思いもしなかった。


「いろいろあって払うのが遅れてしまっていたけど、結婚式が終わったら渡すつもりだったの」


海藤が私のところに来たのは知っているようで、雪香は気まずそうに答えた。


「どうしてそんなに後回しにしたの? だいたい勝手な事して欲しくなかった。雪香に悪気が無かったのは分かるけど、私は海藤にも三神さんにも脅されて、酷い目にあったんだから!」

「……ごめんなさい」

「謝られても、許せない。雪香の考え方や気持ちは殆ど共感出来ないし」


本音を言うと、雪香は悲しそうに俯いた。


「自分でも最低だって思ってる。でもどうしても謝りたかった。結婚式の日に沙雪に電話したでしょ? 何もかも捨てて徹のところに行ったけど、沙雪だけが心残りだったの、だから謝りたかった……伝わらないとは思ったけど」

「……本当に……何もかも意味が分からなかったよ」


雪香が消えてから今までの出来事が、鮮明に脳裏に浮かんだ。

何が起きているか、まるで分からずに不安な日々を過ごして……それらは、全て雪香の気まぐれと自己満足の結果だった。


虚しいような悲しいような感覚に陥り、私はギュッと目を閉じた。

落ち着かないと、雪香を更に責めてしまいそうだった。


しばらくの間沈黙が続いた。雪香の緊張が私に迄伝わって来る。そんな中、私から口を開いた。


「雪香……私にごめんなさいって電話して来た時どこに居たの?」

「え?」


雪香は質問の意図が分からないのか、戸惑いを見せた。


「あの時、雪香の話す声と一緒に鐘の音が聞こえて来たんだけど」

「あ……確かに教会の鐘が鳴ってた……あの後すぐに立ち去ってしまったけど」


雪香は当時の状況を思い出したようだった。


「じゃあやっぱり教会に居たの?」


雪香は静かに頷いた。


「さっき教会から逃げ出したって言ったけど、正確には少し違うの。着替えをして控え室から出た後教会の中に隠れてたの。周りは人が沢山で逃げ出せそうに無かったから……隠れて徹にメールしたの。結婚式から逃げ出したって、一緒に逃げるから迎えに来て欲しいって」

「それで彼は迎えに来たの?」

「すごく怒ってたけど……人気が無くなってから来てくれた。あの時彼は最後に私を見ようとして、近く迄来ていたの」

「じゃあ私に電話したのは彼と会った後?」

「あの教会で徹と誓ったの、ずっと一緒にいようって。もちろん中には入れなかったけど……その後沙雪に電話したの」

「私はあの時、雪香がまだ教会に居るんだと思って必死に駆け戻ったんだよ」


雪香の言葉に胸が苦しくなり声が震えた。

あの時、自分でもどうしてだか分からないまま、必死になって雪香を探した。


辺りが暗くなっても、息が切れても立ち止まらないで走り回った。


あれ程雪香を恨み憎んでいたのに、消え入りそうな雪香の声を聞いた瞬間、強い不安を感じて体が勝手に動いた。それは、ただ雪香の身を案じる心からの行動だった。


大嫌いで、憎んでいる雪香だけど、たった一人の妹を心の底から嫌いにはなれていなかった。完全に切り捨てられなかった。それなのに、雪香は……。


「私は……自分でも馬鹿みたいと思うけど雪香を心配してたんだよ……それなのに雪香は彼と結婚式をしてたなんて」


悲しみと悔しさが入り混じった気持ちで、目の奥が熱くなった。


「沙雪……ごめんなさい……」


雪香は頭を下げながら震える声で言った。私は答えられず目を閉じた。


雪香と再会してから今日まで、本当に酷い目に有って来た。

恋人を失い、訳の分からない事に巻き込まれ……最後は監禁までされて。

ろくな目に遭わなかったなと思う。


それでも……そんな中でも得たものは確かに有った。

それはかけがえの無い出会いで、自分自身の考えすら変わるような、救いの有るものだった。

もし雪香と再会してなかったら、それは無かった。


蓮ともミドリとも会うことは無く、私は直樹に騙されたまま結婚していた。

そして、いつか直樹の裏切りを知って苦しんだのかもしれない。


どちらが良かったのか分からない。もう全て過ぎ去った事なのだから。


雪香への気持ちが憎しみだけでは無いと自覚している。

分かり合えないし、呆れるばかりの行動をする雪香だけど、心の深いところで、たった一人の妹への情は確かに残ってる。


それでも、やっぱり元には戻れないと思った。


「雪香の話は分かった……共感は出来ないけど、雪香も大変だったんだと思う」


雪香は黙ったまま、不安そうに私を見ている。


「雪香、これを最後に私達は会わない方がいいと思う」

「え?!……沙雪待って、私は……」


雪香が動揺したように、高い声を上げる。その様子を見ていると、苦しくなった。


「雪香はどうして私に謝ったの?」

「え……それは悪いと思ったから、ただ謝りたくて」

「それは本心かもしれないけど、他にも有ったでしょ?」


雪香はハッとしたように顔を強張らせた。


「それは……」


雪香は視線を泳がせ、言葉に詰まった。

その様子から、やっぱり私の想像していた通りなんだと確信した。


「雪香は本当に滅茶苦茶で酷い行動をしたよ。感情のまま動いて筋も通って無い」


淡々と言うと、雪香は傷付いたような顔をした。


「自分でも分かってる……考えが足りなくて、迷惑かけてごめんなさい」

「もう謝らないでいいから、何度聞いても気持ちは変わらないから」

「沙雪……」

「雪香は無意識にかもしれないけど、私には何をしても許されると思ったんだよ。最後はまた元に戻れると思ってたんでしょ?」


図星のようで、雪香は気まずそうな顔をした。

雪香の考えなしな行動は、私が相手だということも有ったのだろう。

私と本当に縁が切れる訳は無いという甘えがあった。


馴染みが薄くても私達は双子で、誰よりも濃く繋がってるんだから。

そして私も……怒って拒絶しながらも、雪香との別れを自覚出来ていなかった。

はじまりは花嫁が消えた夜

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