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𝕔𝕠𝕔𝕠
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abc
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#さのじん
さき
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午後になって一層容赦なく照りつけてくる太陽から逃げるように、足早に事務所のドアをくぐる。むせ返るような外の暑さから一変、空調が整った屋内はともすれば肌寒く感じてしまいそうなほどだ。
車を降りてから大した距離は歩いていないはずなのに、あっという間にじわりと滲んでいた汗を拭いながらエレベーターホールに向かう。
何台かならぶ箱の前に、よく知る背中を見つけた。午前中に別の仕事があったのか、後ろからでも髪が綺麗にセットされているのがわかった。彼も着いて間もないのか時折服で冷気を煽っている。半袖から覗く腕は日焼けとは無縁なようで、紫外線やら日焼け止めやら色々と気を遣っている仁人の努力の賜物だな、なんてぼんやり思いながら手元のスマホを見つめる後ろ姿に近づく。
「お疲れ、仁人」
声に反応してパッと顔を上げ振り向いた仁人に思わず目を瞠った。
珍しく、眼鏡を掛けている。
「お疲れ、……どした?」
「や、眼鏡掛けてっから」
「ああ、なるほどね」
ちょうどエレベーターが到着し中に乗り込んでからも、普段見ないそれが新鮮でつい横顔をじっと見つめてしまう。基本コンタクト派で、家や撮影の小道具以外で掛けることはほとんどなかった気がする。用は済んだのかスマホの画面を落とし、ポケットにしまい込みながら仁人が続けた。
「朝起きたらちょっと充血しててさ」
「え、ちゃんと寝れてんの?」
「それ、佐野さんにだけは言われたくねぇですけど。……まだ、赤い?」
吹き出すように笑った後、身長差ゆえに多少こちらを見上げる角度でレンズ越しでも大きな瞳が向けられた。多少赤らんでいる気もしなくはないが、眼鏡のおかげでそれほど目立ってはいない。
「そんな気にならない、と思う」
「ん、なら良かった」
というか、それよりも。
二人だけのこの狭い空間で、至近距離で見つめ合うという状況になんだか妙に居心地の悪さを感じて思わず顔をドアに逸らす。幸いタイミング良くドアが開いて、着いたね、と振り切るように外に出た。
「あ、待って」
「え、」
降りた先で不意に袖を引かれ、再び目がかち合う。
そのまま、掌がゆっくりと顔へ近づいてくる。それは酷くスローモーションのようで、それでいて逃げる暇がないもので。
無意識に息を止めていたと気づいたのは、そっと頬に触れた指先が随分と離れたあとだった。
「睫毛、ついてた」
取れたよと、ふっと優しく笑って背を向けて歩き出す。自分も行かないと。そう思うのに、どうしてか少しも踏み出せない足と看過できない顔の火照りを感じて、その場で顔を覆った。
だって、これは多分。
「……勇斗?」
「へ!? なに、どうしたの?」
「いやこっちの台詞なんだけど、……大丈夫?」
なかなか来ない俺を不思議に思ったのか、いつの間にか目の前にいた仁人に自然と俯いていた顔を覗き込まれる。
こいつ、こんなに距離感近かったか?いや、案外パーソナルスペースが狭いからこんなもんだったような気もする。じゃあ、俺がおかしいのか。あれ、いつもどうしてたんだっけ。
「顔、赤くない?」
心配そうに向けられる瞳に、なんて言い訳しようかすでにショート寸前の頭をフル稼働させる。否、させようとした。
でも、額に手の甲を当てられて。
それから、不安気な目が合って。
もう、駄目だった。
「はや、」
「っ大丈夫だから、マジで! ……ちょっと飲み物買ってから行くわ」
咄嗟に強く振り払った手の向こうに、驚いたような傷ついたような表情を見つけて、すぐに後悔した。そんな顔、させたかった訳じゃないのに。
「……ごめん」
地面に吐き捨てるようなそんな言い方で、一体何が伝わるんだろう。自覚した途端にこれだなんて、目も当てられない。
逃げるようにその場から離れ、廊下の端にある自販機の陰に身を寄せた。そのまま力んでいた身体を緩ませ、ずるずるとしゃがみこむ。脱力に任せて、詰めていた息をそっと吐いた。
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