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#禪院甚爾
欲 。
89
さーもん
48
641
とーにゃん
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「……甚爾が、五条悟に殺されたそうだ」父・直毘人の部屋から聞こえたその淡々とした声が、直哉の鼓膜を突き破る。思考が一瞬で真っ白に変色した。頭の芯が急激に冷えていき、呼吸の仕方を忘れたように胸が詰まる。
「嘘や……。なんであの人が、負けるわけがない……!」
周囲の術師たちは「当然の因果応報だ」「禪院の恥晒しが消えた」と口々に嘲笑っていた。しかし、直哉の耳にはそのすべてが耐え難い雑音でしかなかった。部屋を飛び出し、自分の部屋へと駆け込んで、狂ったように内側から鍵を閉める。どれだけ待っても、もうあの男は現れない。金が無くなったと、気怠げに路地裏から顔を出すこともない。自分の名前を「直哉様」と嘲りながら、顎を持ち上げるあの乱暴な手の温もりも、二度と手に入らない。
「なんでや……っ、なんで俺を置いていくんや、甚爾くん!」
直哉は床に伏し、声を上げて泣いた。涙がボロボロと溢れて畳を黒く汚していく。彼にとって、自分という存在はただの「便利な金蔓」に過ぎなかった。名前すらまともに覚えてもらえなかったかもしれない。それでも、あの冷徹な瞳に一瞬でも映ることだけが、直哉の歪んだ生を支える唯一の酸素だったのだ。心が通い合うことなど、最初から期待していなかった。それでも、同じ世界のどこかで、あの圧倒的な強さを誇る肉体が生きているという事実だけでよかった。それだけで、この腐りきった禪院家という地獄を、エリートの仮面を被って生き抜くことができた。ふと、直哉は引き出しの奥から、十歳のあの日からずっと大切に隠し持っていた一枚の手ぬぐいを取り出した。もうとっくに甚爾の匂いなど消え失せ、ただの古びた布切れでしかない。それを顔に押し当てると、虚しさだけが鼻腔を通り抜けていく。
「名前……最後くらい、ちゃんと呼んでほしかったな……」
甚爾にとって、自分との時間は記憶にすら残らない一幕だったのだろう。去り際すら、直哉のことなど微塵も思い出さずに、五条悟という強者との死闘の中に消えていったに違いない。直哉はゆっくりと立ち上がり、鏡の前に立った。泣き腫らした目を袖で乱暴に拭い、髪を整える。鏡の中にいるのは、大切な太陽を永遠に失い、心の中が完全に空っぽになってしまった「禪院直哉」だった。庭のひまわりはとうに枯れ果て、冷たい秋の雨がその死骸を濡らしている。どれだけ焦がれても、どれだけ身を削っても、自分はあの男の記憶に爪痕ひとつ残せなかった。最初から最後まで、独りよがりの一方通行。残されたのは、二度と埋まることのない絶対的な喪失感と、あの人のいない世界を生き続けなければならないという、残酷な呪いだけだった。
コメント
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うわあ……直哉の心情がえぐすぎて泣きそうになった。甚爾に名前すら覚えてもらえてなかったかもしれないのに、それでも“同じ世界に生きてる”だけでよかったっていう歪んだ執着、めっちゃ刺さった。手ぬぐいの匂いがもう消えてるって描写も、喪失感が重すぎる……。最後の「名前をちゃんと呼んでほしかった」が本当に切ない。一方通行の恋ってこんなに苦しいんだなって思わされた。次話も楽しみにしてます!