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「ん…………アリア、今何時……?」
『地球時間で午後10時になります、ティナ。現在地は北米大陸アメリカ合衆国ワシントンD.C.異星人対策室本部ビルにある一室です。内装からして、ティナに過ごして貰うために用意されたものと思われます』
うっすらと目を開いた私は、ゆっくりと身体を起こした。仰向けに寝かされていたけど、とんでもなくわ柔らかいベッドで翼も左右に広げてくれてるから付け根辺りがちょっと痛いだけで済んだ。私を運んでくれた人達が配慮してくれたんだろうな。多分メリルさん達。
『簡易バイタルチェックを開始……スキャン中……バイタルに異常は見られませんが、体内のマナを著しく消費しています。少なくとも明日の朝までは魔法の行使を控えてください』
「ん、分かった。ありがとう、アリア」
メリルさんの怪我を治癒魔法で治したのは良いけど、持ってるマナの大半をゴッソリと失った私はマナ欠乏症に陥った。簡単に言えばマナを使いすぎたことによるスタミナ切れかな。
アード人は骨折を癒すくらいのマナを小さな子供だろうと持ってる。治癒魔法の得手不得手はあるけどね。
対して私はヒビが入ってる程度を癒すだけでマナ欠乏症になるくらい保有マナが低い。転生チート……何処……?
『マナ欠乏症は完全に癒えていません。このまま朝まで睡眠を取ることを推奨します』
「分かってるけど、フェルに連絡しないと」
『ティナが意識を喪失した後、マスターフェルには私から本日の動向をレポートとして報告しています。マスターフェルより、無理をしないで欲しいとの言葉を預かりました』
「またフェルを心配させちゃったね……ありがとう、アリア」
『私はサポートAI、ティナのサポートが存在意義です。お気になさらず』
「ん……今日はこのままここで過ごした方が良いよね」
ジョンさん達がせっかく用意してくれたんだし、勝手に帰るわけにはいかない。そんなことはしないけどね。
『接近する人物を確認しました。解析、メリル=ケラー女史と判明』
「メリルさんが?」
少し待っていると、部屋にメリルさんが入ってきた。身体を起こしてる私を見てちょっとビックリしてる。
「ティナちゃん、もう大丈夫なの?」
「はい、ご心配をお掛けしました」
まだちょっとキツいけど、笑顔で応じた。来て早々倒れたのは事実だしね。もちろん後悔はしていないよ。
「そう……良かった。改めて、ありがとうティナちゃん。貴女のお陰で怪我が治ったわ」
「どういたしまして。もう痛みはありませんか?」
「ええ、ドクターもビックリしていたわ」
『簡易スキャン中……メリル女史のバイタルデータに異常は見られません』
「それは何よりでした。ここにはメリルさんが?」
「私と女性スタッフで運んだわ。でも、ごめんなさい。どうしても服を脱がせることが出来なくて着替えは済ませていないの」
アード人の装束は見た目は薄着なんだけど各種バリアを備えてるからなぁ。本人か、専用の器具を使わないと脱がすことは出来ない。
「ありがとうございます。でもこの服は極力脱がない方が良いのでこのままでお願いします」
前回の訪問でアリアが地球の環境データを充分に解析してる。そのデータはお母さんに提出してるから、環境に適応するためのワクチンが直ぐに開発されるはず。
と言うか、これが無いと本格的に移住なんて出来ない。ちなみにリーフ人はアードに移住する際全員にアードの環境に適応するためのワクチンを接種してる。
子供が生まれる際は無菌室で分娩、生まれた瞬間に接種するようになってる。話が逸れた。
「そう?何か事情があるのね」
「宇宙服みたいな感じだと考えていただければ」
厳密には違うけど、理解して貰うには分かり易く言葉にする必要があるってばっちゃんが言ってた。
ちなみにばっちゃんは千年以上生きてるくせに、私より幼い見た目だ。いや、小学生低学年レベル。詐欺じゃない?
「そう……分かったわ。ところで、お腹が空いてるんじゃない? 簡単にだけど、食べられるものを持ってきたわよ」
薄暗くて良く見えなかったけど、メリルさんが持ってるのは……ハンバーガー!?
「それ、ハンバーガーですか?」
「ええ、そうよ。兄さんからティナちゃんが美味しそうに食べていたって聞いたから、食堂で作って貰ったの。食べる?」
「いただきます」
あっ、でも食べられるかな? アリアに調べて貰わないと。
私の考えを察したのか、メリルさんは笑顔を浮かべた。
「大丈夫よ、ティナちゃんが食べられないものは使われてないわ。実はね?」
前回の訪問でアード人が体質的に食べられない食材をデータ化して渡したんだけど、異星人対策室のビルにある食堂ではそれを元に私が食べられる食材だけを取り扱うようになったみたい。
私が滞在することが多いだろうし、万が一があってはいけないからって配慮だ。
その気持ちはとても嬉しい。皆さんの優しさが染み込んだハンバーガーは、とても美味しかった。アメリカンなサイズでちょっと多かったけど。
「御馳走様でした。美味しかったです!」
「それは良かった。ティナちゃんの口に合うか心配だったのよ?」
「地球の食べ物はどれも美味しいですよ?アードでは無味無臭の栄養スティックが基本ですから。たまに食材があったとしても塩焼きが一般的ですから。しかも薄味です」
「料理の文化が無いのかしら?」
「廃れてしまったと言うのが実情ですね。少なくともアードの料理や食べ物を地球の皆さんにお勧めは出来ないです」
少なくとも地球の食べ物よりずっと不味い。味付け云々以前に、食材そのものに味がないんだよね。
フェルがサラダを食べて感動していたのは、ドレッシングはもちろん野菜に含まれる味に感激したのも理由だ。アードの野菜は生で食べられない。
敢えて言えば、何も付けていない歯ブラシを噛んでるような感覚。
「そこまで言われると逆に気になるわね。どんなもの?」
「食べてみます?栄養スティックと言って、アード人の庶民の主食です。一つで1日分の栄養が得られるんです」
私が差し出した栄養スティックをメリルさんが受け取る。
「カロ◯ーメイトみたいね。これ、食べられるの?」
「地球人に害がある成分は含まれていませんよ。あっ、でも全部は食べない方が良いです。カロリーが凄い数値になると思いますから」
「それは聞き捨てならないわね。じゃあ、一口だけ」
一口齧ったメリルさんは、何とも言えない顔をした。うん、分かるよ。
「……本当に味が無いわね。アードで地球の食べ物が売れるのも分かるわ」
「でしょう?」
互いに笑いながらメリルさんと雑談を交わして最初の夜が終わった。
……ん、なんだかまたやらかしてしまったような気がするけど、気のせいだよね。