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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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翌日、私はすぐに行動を開始した。陸翔兄さまは「ずっとこのホテルを使っていい」と言ってくれたが、さすがにそれは私の気持ちが許さない。当然、彼に頼めばマンションだって手配してくれるだろうし、両親に頭を下げることだってできる。しかし、私はそのどちらもしたくなかった。

とりあえず芳也の家に行き、隠してあった通帳やクレジットカードを持ち出してきた。

芳也がたまに私のスマホをチェックすることがあったので、アプリなどはインストールしていなかった。

それをダウンロードして、口座を確認すると、当面の生活には十分な資金があることがわかった。株や資産運用もうまくいっているようだ。

私は早速、不動産サイトで物件を検索し、数件ピックアップした。できるだけ家具付きの物件がありがたいと思ったので、その条件に合う物件を探した。そして問い合わせをしてみると、すぐに入居可能な物件を教えてもらえた。私は、週末には引っ越しをしようと考えていた。

その時、スマホに着信が入った。陸翔兄さまからで、離婚のことについて夜に話し合いたいという内容だった。

毎晩、私に付き合ってくれることには申し訳なさを感じたが、離婚の手続きを進めることが今は最優先だ。

そう思い、了承の返事をすると、彼の仕事が終わったら、このホテルで食事をしながら話すことになった。

銀行などの手続きをしているうちに、気づけば19時を過ぎていた。

時計を見たタイミングで、陸翔兄さまから「20時に予約をした」との連絡が十分前にあったことに気づいた。

一日中パソコンの前に部屋着で座っていたので、慌てて準備を始めた。

ただ話をするだけなのに、なぜか緊張してしまう。指定されたレストランは、私が昔から好きだったイタリアンレストランで、ドレスコードがあるお店だ。

クローゼットを開けると、多くの洋服の中に、こうした場面も見越したようでドレスも数着あった。

その中でも、シックなベージュのドレスを選び着替える。

久しぶりのドレスアップとメイクだったが、意外にも上手に仕上がった気がする。鏡に映る自分を何度も確認し、私はホテルの部屋を後にした。

しかし、レストランのあるフロアに降りた時、私は思わず声を上げてしまった。

「冗談でしょう?」

広々としたスペースには、シックな雰囲気でラウンジスペースのようになっている。そこに座っている人が私を見ていたのだ。

そして、ゆっくりと私の方へと歩いてくる。

「本当にこのホテルで男をあさっているんだな」

「芳也……どうしてここに」

信じられない思いで尋ねると、芳也は鋭い視線を私に向けた。

「美咲が、お前の居場所を探してくれたんだよ。スイートルームに出入りしてるってな」

私は何も言わずに彼を睨みつけた。どうやら、彼は私が金持ちの男に身を売っていると思い込んでいるらしい。美咲さんの両親もそれなりに権力を持っている人だ。人を使って私の居場所を探ったのだろう。しかし、今の言い方だと、私の身元まではまだ特定されていないようだ。

「それで、こんなところまで何か用事?」

私は淡々と尋ねたが、それが彼の怒りをさらに煽ったようだった。芳也は怒りをあらわにする。

「お前がやったことは脅迫だ!」

「脅迫?」

まったく意味がわからなくて、私は怪訝な表情で問い返す。

「どうやってあの弁護士を雇ったのか知らないが、この一日で美咲との関係を調べ上げ、俺に離婚届に判を押させただろう。でも、俺は納得していない」

離婚届に判を押した? 敏腕弁護士? もう陸翔兄さまが手を回してくれたのだろうか。そんなことを考えていた時だった。

「芳也!!」

聞き覚えのある声が響き、その方を見るとワンピース姿の美咲さんが走って来るのが見えた。

「ねえ、何してるの! 離婚できたのに、どうして!」

美咲さんの言うことはもっともだ。彼女は不倫相手であり、離婚が成立した今、自分の元へ芳也が来ると思っていたのだろう。しかし、芳也は私に会いに来ていたのだ。

きっと彼女としては、身売りをしていることを伝えて、離婚をさせたかったのだろう。それがこんなことになるとは思ってもいなかったようだ。

「うるさい! 俺から離婚することはあっても、沙織からなんて許せるわけがないだろう!」

その言い草に、私は呆れてものも言えなかった。結局、彼のプライドが許さないのだ。

「もういい? 私には話すことは何もないわ。もう離婚したんだから、あなたとは何の関係もない」

「沙織!!」

怒りながら私の名前を呼んだ芳也の隣で、美咲さんが彼の腕に自分の腕を絡ませながら、私をじっくりと見つめた。

「ねえ、そのドレスどうしたの? 今年のメルノのコレクションの新作じゃない?」

「え?」

その言葉に、芳也も私を改めて確認しているようだった。メイクも完璧だし、陸翔兄さまに会うために少し気合を入れたので、見た目は確かにいつもとは違う。

「芳也、何よ。この女、ただ少しメイクをしただけよ。中身はあの地味な女なのよ。何見てるのよ!」

なぜか私を見る芳也に、美咲さんが怒ったように声を上げた。

呆れるほど低次元な二人に、私は過去の自分を呪いたくなった。どうして私はこんな人と結婚してしまったのだろう。

「私は身売りなんてしていないし、これから食事に行くの。失礼するわ」

私は二人の横をすり抜け、昔の自分に別れを告げた。

「沙織、待て!」

芳也の声が背後から聞こえたが、私は振り返らなかった。陸翔兄さまばかりに頼ってはいけない。これからは自分の力で、彼らに立ち向かう強さが必要だ。そう心に決めながら、私はレストランへと向かった。

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