自由の国に難なく辿り着いた僕とヤマトたち一向は、真っ先に水の神 ラーチと守護神 ロロさんに同行を頼んだ。
二人とも二つ返事で同行すると言ってくれた。
仙人たちの別動部隊とは既に別れていた。
「それではヤマト、僕たちは島を一周するようにフライドラゴンで低空飛行をし、海岸沿いに降ります。ヤマトたちは作戦通り、龍族の一味のアジトを探し出し、作戦を開始してください」
ヤマトは緊張した顔で頷いていた。
「それでは、覚悟を決めてください。行きます!」
そして、僕たちは再び空へ舞い上がった。
雷龍島は、雷龍が生息することで磁波が発生し、上空には常に雨雲から雷雨が発生していた。
「雷が危ないので、この辺りから低空飛行を開始します! アズマさん、しっかり着いて来てください!」
僕は、後方を恐る恐る飛行するアズマさんに叫んだ。
水の神 ラーチは、守護神 ロロを液状化させると、小瓶に詰めて自分は海を泳いで行くと話していた。
本当に着いて来ているかは心配だが、七神のことだから、また特殊な能力でも芽生えさせたのだろう。
ここからでも魔物の声が少しずつ聞こえる。
うまく引き付けられているのを確認し、海岸沿いにゆっくりとフライドラゴンを着地させた。
「ふぅ、怖かったけど、本当にこのドラゴンの操縦って簡単なのな!」
後ろに大多数の魔物が迫って来ていると言うのに、アズマさんはお気楽に笑っていた。
「ぷはー! とうちゃーっく!」
僕らの着地と同時に、水の神 ラーチも海水の中からドバッと現れた。
「もう既にフライドラゴンを主食としている群れを形成する魔物が迫って来ています。やがて、戦闘の音を聞き付けて大型の魔物も寄ってくるでしょう」
しかし、水の神と守護神、ある種絶対防御のアズマさんの布陣に掛かれば、魔物の群れなど恐ろしくはない。
一つだけ、注意すべきことがある。
「出発前にも話しましたが、龍の住処には必ず、龍を守護する魔獣がいます。操られている龍を見る限り、その魔獣は人間からの被害と捉え、僕たちを見つけたら襲ってくると思います。その魔物に僕の時間停止魔法は通じません」
二人はいつになく真剣な表情を僕に向ける。
「雷龍を守護する魔獣は、天空の雷を操ってきます。落雷の速度が速い代わりに、魔獣自体の速度はあまり早くはありません。そこを狙います」
「分かった……なるべく頑張ってみるぜ」
「僕も! ロロちゃんと戦うぞー!」
そう言うと、ロロさんを小瓶から出し、液状化していたロロさんは元の姿に戻って行った。
ガサガサっと音が広がる。
「来ます……!」
しかし、僕たちの前に現れたのは……。
「随分とお怒りのようですね……魔獣サンドラ……!」
もう少し後から登場してくると思っていたが、雷龍を守護する魔獣サンドラは、随分とお怒りなのか、フライドラゴンに人間の姿を見たその勢いで走って来ていた。
「お、おい……! この一際デカい奴が魔獣か!?」
「そうです! 他にも群れを成した小型の魔物は足が速いので気を付けてください……!」
順番に倒していけばまだ楽なものを……いっぺんに来られるとは予想外だった……。
やはり水の神を頼って正解だった……!
「ラーチ! 貴方の水神魔法を使用してください!」
しかし、ラーチは僕を見遣ると首を振った。
「ダメだよ、僕の水神魔法を使ったら、ここにいる君たちも全員死んじゃうから」
全員死ぬ……!?
「こ、効果を教えてください!! 緊急事態です!!」
「僕の水神魔法 レイニー・デスマーチは、僕の周囲100mの生体反応全てを水で刺殺するんだ」
生体反応を感知する魔法だったのか……!
「フライドラゴン!! そうです! フライドラゴンで、ラーチから100m離れれば魔物を一掃できる!」
「そうだね! それなら発動しても大丈夫!」
「アズマさん、すぐにフライドラゴンで飛行します!」
「お、おう……分かった……!」
そして、僕とアズマさんはすぐにフライドラゴンで飛行を開始した。
「任せ切りですみません! ラーチ、水神魔法をお願いします!!」
「ふふ、戻って来る頃には全部死んじゃうね……!」
ラーチは、戦闘モードに入ると、目付きが変わり、まるで幼少の子供とは思えないオーラを発した。
そして、両手を広げると、青いオーラが溢れる。
「 “強制発動 水の加護 スコール” 」
ロロは再び液状化し、降り注ぐ雨の中、どこにロロがいるのか視認できなくなった。
「魔物さんたち、君たちに罪はないけど……ごめんね」
一斉に魔物の群れがラーチに襲い掛かる。
「 “水神魔法 レイニー・デスマーチ” 」
その瞬間、次々と魔物は血を噴き出した。
そして、水の連撃は、魔獣サンドラにも命中していた。
「よし……あとは僕の光魔法で時間停止をしておけば、ヤマトたちも終わらせられるでしょう……」
しかし、安堵するのは早かった。
「ありゃりゃ」
他の魔物は全て一掃出来ていたが、魔獣サンドラだけは水神魔法を喰らってもその場に立っていた。
神の魔法だぞ……!?
水神魔法が効かない……考えろ……何故だ……。
「ガアアアアアアアアッ!!!」
魔獣サンドラは、大きな咆哮を上げると、自身の周りにバチバチと落雷を落とし、威嚇を示す。
そして、僕らは再び着陸し、ラーチの元へ駆け寄る。
「あのデカいのだけ全く効いてないみたい」
「そうですね……理由を考えています……。あの猛烈な速度の鋭い水撃で貫通できない……」
すると、アズマさんは自分の身体を指でチクチクと押しながら、身振り手振りで説明をする。
「なんかこうさ、俺も普段、魔力が漏れ出て、それが常に防御みたいになってるじゃん? そんな感じで……アイツにもなんか、ガードとかあんのかなぁ……とか……」
「しかし、魔獣から魔力放出は感じません」
「やっぱ違うかぁ……ごめんな……」
露骨に残念がるアズマさん。
防御魔法を使っている様子はないのに、あの水神魔法をどうして防ぐことが出来たんだ……?
普段から魔力が漏れ出て……。
「そうです! アズマさん! あの魔獣は普段から常に雷の鋭い落雷を浴びている! だから鋭くて速い攻撃には耐性があるんですよ!!」
アズマさんは少し喜んだ素振りを見せるが……。
しかし、僕の光魔法 オーバーも効かない、水神魔法も効かない、ロロさんの雷魔法は洗脳、アズマさんは防御治癒魔法……。
岩の国で四国目……賭けてみるか……。
「アズマさん、ロロさん、ラーチ……。海岸沿いのフライドラゴンの首に下がっているライトを全身に浴び、決して影には出ないようにしてください……」
「わ、分かった……!」
三人は静かに僕から離れ、ライトの位置をズラして三人が押し寄せる形で光を浴びた。
そして、僕はゆっくりと浮遊する。
「ガアアアアアアアアッ!!!」
今度は攻撃するつもりか……まあいい。
雷獣サンドラの口は大きく開かれ、眩しい雷のエネルギーが蓄積されて行った。
「君に罪はない、龍の守護者よ……」
僕は右手を魔獣サンドラへと向ける。
「龍たちを取り戻したら復活させる。待っててくれ」
雷獣サンドラの口元からは、膨大な雷のエネルギー光線が放たれた。
「 “光魔法 ブラックヘル” 」
僕の上空には光が舞い込み、やがて陰っている陸地を覆うように光は満遍なく降り注がれる。
そして、その光を浴びた者は……消滅する。
やがて光は止み、僕はゆっくりと着地した。
結果は……
「ガアアアアアアアアッ!!!」
ダメだった……!
この魔法を使うにはまだ力不足だ……!
「皆さん! ダメです! 一時撤退を……!」
僕が背後を向いた瞬間だった。
「アゲル……!!」
魔獣サンドラは、雷を浴びせた拳を僕に振り翳して来ていた。
そして、
「グ……!!」
「アズマさん……!!」
アズマさんが僕の身代わりに、両手でそれを防いだ。
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