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昼過ぎにトワノがハンバーガーのセットを人数分買ってきて、早めの昼食を取り、トモエは事務室の中でヒミコの仕事用のデスクの後ろにあるソファに座っているように言われた。
何もする事がなく所在無さげにトモエがスマホを眺めているうちに、ウルハトワノは仕事があると言って外へ出て行った。
ヒミコのデスクの上の固定電話が鳴り、ヒミコが受話器を耳にあてる。感情らしき物を全く感じさせない表情と口調のヒミコが、営業用らしき愛想のいい声色で話し始めた。
「はい、ホワイト・リズムです。ああ、毎度おおきに。へえへえ、その商品ですかいな? 少々お待ちを」
ヒミコがパソコンのキーを素早く叩き、何かのリストらしいデータを呼び出す。それを見ながらヒミコが電話の相手に言う。
「ひとケースだけなら、在庫にありますわ。お急ぎなんでっか? はあ、大至急ですかいな。分かりました。これからすぐお届けしますさかい。ほな、後ほど」
ヒミコは立ち上がって部屋を出て行き、倉庫部屋から中ぐらいの大きさの段ボール箱を抱えて戻って来た。大きなトートバッグを取り上げてトモエに言った。
「ウチはこれからちょっと届けもんしてくるさかい」
トモエはソファから立ち上がってヒミコに言う。
「あの、でしたら手伝わせて下さい。あたしも一緒に行きます」
「なんや、一宿一飯の恩義でも感じとるんか? そんな気を遣う事はありまへんで」
「いえ、その……夢だとしても、あんな場面見た後じゃ一人になるのが不安で。できれば誰かと一緒にいたいんです」
「そうなんでっか? ほな、遠慮のう手貸してもらいましょ。その段ボールの箱、運んでくれまっか? ウチの後についてくりゃええさかい」
「はい!」
ヒミコはトートバッグを右肩にかけ、左肩にはショルダーストラップ付の黒い長い筒をかけて背中に回した。トモエは同じような物を見た事があった。
高校時代の美術の教師が似たような物をよく背負っていた。大きな絵の用紙や設計図などを丸めて収納する筒だ。ヒミコのそれはもう少し大きく、長さ1メートルちょっと、直径12センチほどの物だった。
ヒミコの後を追って部屋を出る。ビルを出て少し通りを歩き、川に掛かっている小さな橋を渡る。人二人がすれ違う程度には幅のある金属の欄干のある橋だった。橋のたもとに「神田ふれあい橋」と刻まれたプレートが嵌め込まれていた。
そこを渡るとにぎやかな繁華街の通りに出た。そのままさらに広い大通りへと向かって行く。その道すがらトモエはヒミコにいろいろ訊いてみた。
「その筒、ずいぶん大きいですけど、絵を描かれるんですか?」
ヒミコは肩にかけた筒型収納ケースをちらりと見て答えた。
「いや、これは商売の道具や。いつ必要になるか分からんさかい、出かける時はいつも持ち歩いとるのや」
「ホワイト・リズムって何をする会社なんですか?」
「まあ、一言で言えば人材派遣かいな」
「人材? どんな?」
「あんさん、地下アイドルって知ってはりますか?」
「ええと、聞いた事ぐらいは」
「いろんなタイプの地下アイドルがうちの会社に登録してましてな。事務所であんさんが会ったウルハもその一人なんでっせ」
「え! そうだったんですか?」
「あの子は男装のアイドルや。この秋葉原では客寄せのために、年がら年中いろんなイベントやってますさかいな。そういった所へ要望通りの地下アイドルを派遣するんが、うちの会社の仕事や」
トモエが胸に抱えている段ボール箱を見て訊く。
「これも地下アイドルに関係が?」
「これはなんちゅうか、便利屋みたいな仕事や。地下アイドルの仕事なんて、そう毎日毎日注文があるもんやありまへん。普段はこの辺のお店のいろんな雑用やらを請け負うてますんや」
広い歩道がある大きな通りに出た。どうやら秋葉原の街のメインストリートらしい。地方都市にずっと住んでいて都会をほとんど知らないトモエが目をきょろきょろさせて歩いていると、信号で立ち止まっていたヒミコに気づかず、後ろから勢いよくぶつかってしまった。
そのはずみでヒミコが背中に下げていた筒状の収納ケースが上下にひっくり返り、上部の蓋が取れて中身が地面に飛び出してしまった。
からんと乾いた音を立てて地面に転がったそれを見て、トモエの足が凍り付き、顔から血の気が引いた。
それは長さ1メートル弱の日本刀だった。