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──まさかそんな言い方をするなんて、売れる気がないんだろうかと思う。
新人のバンドなら、どんなインタビューにもてらいなく応じて、なんとか自分たちをアピールしようとするものなのに、この人にはそんな印象が微塵も感じられなかった。
扱いにくいなぁーと、再び思いながらも、気を取り直して続けて尋ねる。
「バンドのコンセプトは、どんなことですか?」
私の質問に、しばらく無言でいた後、
「……。あのさぁ……、」
と、彼がいかにも重たげに口を開いた。
「……あんたの質問、つまんないんだけど……」
「はぁ?」
気をつかう大物アーティストならまだしも、デビューしたばっかりのバンドに、そんなセリフを吐かれたことなど、一度だってなかった。
「悪いけど、おもしろくもないから、もう答える気はないから」
言うと彼は、心底つまらなさそうに、あくびを噛み殺した。
「そんなことを言われては、記事が書けなくなってしまいますし……」
その姿にあっ気に取られつつ、なんとか場の雰囲気を保とうと試みようとしたけれど、
「資料でも見て、適当に書けば?」
向こうはそう言い捨てて、さっさと席を立つと、レコーディングスタジオへと入って行ってしまった。
「あっ、ちょっと、待って!」
とっさに呼び止めたけれど、その彼はこちらを振り向きもしなかった。
「なんなのよ…まったく…」と、ため息をつく。
急に被写体にいなくなられ、困ったように立ちすくんでいるカメラマンに、
「……あの、写真は、撮れましたか?」
申し訳ない気持ちで、おずおずと確かめた。
「ああ、はい…一応は。でも、インタビューの方は、大丈夫なんですか?」
逆に心配をされてしまい、「はい……」と、言い淀む。
「大丈夫です……。編集長に事情を話して、私の方で何とかしますので」
外注のカメラマンには迷惑をかけたくなくて、頭を軽く下げて伝えた。
「わかりました。ではまた後ほど、写真のデータをお送りしますので」
「はい。今日は、お疲れ様でした」
カメラマンが先に帰るのを見届けて、スタジオの方に目をやると、さっきの男性がヘッドフォンをつけて、まさに歌い出そうとしていた。