テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ナッキの言う通り、モロコやメダカより随分大きい魚は、ナッキより一回り小さくて笹の葉型の細身の体を持ったハヤに見え、以前に嵐から避難するためにこの池に訪れた『暁の弾丸』の一員と思われた。
だがその魚はナッキに対して首を左右に振りながら答えた。
「いいや、俺はピドの『暁の弾丸』メンバーじゃないぜ、ハヤはハヤに違いないが、あいつらオイカワとは厳密には種族が別でな、ウグイって魚なんだ」
「ウグイ? そうなの? ピドたちはオイカワかぁ、ごめん、同じ種族かと思っちゃったよ」
「まあ、ハヤはハヤだからな、他にもカワムツって奴等もいるんだが、良く間違われるんだぞ」
「へーそうなんだー」
「ああ、もうしょっちゅうだよ」
そう会話を交わすウグイとナッキに横手からサムが遠慮がちに言葉を投げる。
「あの~ナッキ様…… なにやらギンブナの方々がピンチらしいのですが……」
「はっ! そうだったっ!」
「お、おう! そうなんだってよ! アンタもギンブナなんだろう? ピドに聞いたんだがヒットとか言う奴がリーダーの群れがピンチらしいぞ」
「ヒット! ヒットがピンチだってぇっ! 一体どんなピンチなの、と、友達なんだっ!」
「お、おう、それがな――――」
その後、ウグイが告げた言葉はナッキにとって嬉しくもショッキングな話であった。
ナッキが流された嵐が収まった後、ヒットやオーリを始めとする若鮒達は、周囲の反対を押し切って流されてしまったナッキを探すために、鮒の住処だった川を旅立ったそうだ。
二十数匹の若鮒達は、幾つかの川の合流箇所を経て、大怪我を負ったナッキが目覚めた大きな川に辿り着いたらしい。
それからは全員でナッキの捜索を続け、大きな川の下流、海の直前まで旅を続けていたのだと言う。
安全な住処も無く岩陰や葦(あし)の根に掴まって夜を過ごし、身を寄せ合いながらも、誰一人捜索を止めようとは言い出さなかったそうだ。
ナッキが初期型のメダカ城、石の築地を完成させてピド達とやり過ごした嵐の時は、本当に危なかったと言う話だった。
多くの若鮒が傷を負ってしまったものの、全員が生き延びられた事は、不幸中の幸いと言えるだろう。
とは言え、怪我の回復に専念せざるを得なくなったヒットたちは、河口付近の中洲にあった流れが殆(ほとん)ど無い『澱(よど)み』に留まっているのだと言う。
嵐から数日後、偶然通りかかった『暁の弾丸』が彼らと話をしナッキの名を聞いた事から、傷付いた彼らに代わって窮状(きゅうじょう)を伝えにやって来たのだそうだ。
ウグイは言葉を続けた。
「ここの入り口までは順調に泳いで来たそうなんだがな、滝を上がれなかったらしくて途方に暮れているピド達に俺が出会った、って訳なんだ、あいつ等は速く泳ぐのは得意なんだが、なにぶんあの小さな体だろ? どうやってもここに繋がる水路までジャンプ出来なかったからよ、俺が代わりに来てやったって訳だよ」
「?」
ナッキは疑問に思った。
何故なら記憶にあるピドと目の前のウグイの体の大きさに、然程(さほど)の違いが無く見えたからだ。
まあ、大きさは変わらなくてもオイカワは速い、ウグイはジャンプが上手い、てな感じで特徴が違っているのかもしれない、そんな風に納得する事にしたナッキは焦った声で返す。
「迷惑を掛けてしまったみたいだね、君たちの親切に心から感謝するよ! で、ヒット達が避難している中洲の『澱み』の場所を教えてくれるかい? 今すぐ僕が行って来るからさっ」
ウグイは申し訳無さそうに言う。
「うーん、それなんだがアンタじゃ無理だと思う…… 『澱み』の手前の水路はかなり狭いからな、アンタの図体じゃ通り抜けられないだろうさ、まあ、見ての通り俺だったら引き締まって細身だろ? アンタの代わりに俺が行って連れて来てやろうじゃないか! それでどうだい?」
言われてナッキは自分の体を見た。
確かに最近は食糧事情が良くなっただけでなく、大掛かりな土木工事も終わってしまった為、運動不足も相まってそこそこ、いいやかなり太ってしまった事を自覚していたのである。
大きく膨らんだ腹部を恥じながらもナッキは言う。
「でも、良いの? そんな事までして貰っちゃってさ、急ぎの用事とかあるんじゃないの?」
ウグイは笑顔で答える。
「俺たちハヤは皆、旅から旅の魚だからな! 急ぎの用事なんかありゃしないぞ! それに俺はオイカワやカワムツと違って一匹旅の気楽なウグイだからよ、心配には及ばないぜ! まあ、任せとけって!」
ナッキは申し訳無さそうにしながら頭を下げる。
「ありがとうウグイさん、この通りだよ…… よろしくお願いします」
「そういや名乗っていなかったな、俺はウグイのティガ、他のハヤたちからは『フーテンのティガ』って呼ばれてるんだぜ、でかくて綺麗で強そうなギンブナの王様よ、ここはこのティガさんに任せてゆったり待っててくれよ」
「あ、ギンブナじゃなくて『メダカの王様』です、後、名前はナッキです」
「そっかそっか、『メダカの王様』ナッキさんね、判ったよ! さてと、んじゃ、ちょっと行ってくるかな」
気楽な感じで言うと、ウグイのティガ、『フーテンのティガ』は背を向け猛烈な速度で泳ぎ去っていったのである。
コメント
1件