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俺は今、中庭にいる。何故ここにいるのかと言うと、ライアネルに呼び出されたからだ。用件は聞かされていないが、きっとろくなことではないと思う。ライアネルは俺のことを何してもいい奴だとでも思っているらしく、こうしてたまに呼び出しては雑用を言いつける。しかもわざわざ人目のつかないところまで連れ出してだ。まあ、そのおかげで俺は城の地理や構造を完璧に把握することができたのでそれはそれでいいのかもしれないが。
それにしても、今日は何させられるんだろうな。正直言って嫌な予感しかしないんだが。
少し離れたところにある木陰に、その人物は立っていた。木に腰掛けてポーズなんか取っちゃって、完全にナルシスト全開である。
「おお、ジェディ。遅かったな。待ちくたびれたぞ」
「ごめんなさい、兄上様」
一応謝っておくと、ライアネルはフンと鼻を鳴らした。どうやら機嫌があまりよろしくないようである。何かあったんだろうか。
「さあ、こっちに来い」
「はい……」
ライアネルは手招きしてくる。俺はゆっくりと彼の方へと近づいていった。
すると突然、目の前が真っ暗になる。布かなにかで目隠しされたようだ。一体何をするつもりなのか。
「なっ、なに!?」
「フハハッ、驚いているな? お前は暗いところが苦手なんだろう? どうだ? 怖いか? 恐ろしいか?」
……いや俺別に暗いところ苦手じゃないんだけど。誰から聞いたんだろう、このバカ王子は。
外そうにも固結びになってて全然取れないし。こんなくだらないことに時間を使うなら勉強しろバカ王子。お前仮にも次期国王だろうが。教養を身につけろアホ王子。
現時点で俺はまだ7歳。家出するのは10歳の予定だからまだあと3年はここにいなきゃいけないってのによ、ほんっっっとうにめんどくせぇな、こいつは。
そう心の中で悪態をつきながら、なんとかこの状況から抜け出そうと試行錯誤するが、無駄だった。全く取れる気配がない。
もういいわ。壁伝いに歩いて部屋に戻ることにするわ。城の中に危ないものはないし、何となくの道順わかるし、俺の部屋はここから遠いけど1階にあるし、大丈夫だろ。
「おいっ、ジェディ! どこへ行く!! ジェディ!!」
はいはい。喚いてろ喚いてろ。しょーもないことでいちいち呼び出すんじゃねぇよまったく。俺は暇じゃねえんだぞ。
俺は目隠しをされたまま、壁を伝いながら自分の部屋へ戻ろうとする。後ろの方からライアネルがギャアギャア騒いでいるのが聞こえるが、気にしない。
俺はそのまま自室へと戻った。あとで父や母に怒られるかもしれんがしらん。俺のせいじゃ無いもんね~。
「確かハサミはこの引き出しに……あ、あった」
俺は自室の机の引き出しの中から、ハサミを取り出して慎重に布を切る。うん、視界良好。ようやく見えるようになった。
ふぅ、と一息ついてからベッドに横たわる。あと3年ぽっちの辛抱なんだ。
俺は家庭教師がいないときに本を読んで知識を蓄えている。航海術も、天文学も、必要な物をありったけ詰め込んでいる。きっとこの家を出てからも勉強し続けるだろうけど、今はそんなことは考えなくていい。
「トレーニングしよ」
俺は起き上がる。まずは軽い筋トレ。その後に木刀を使って素振り。それが終わったらまた勉強だ。今日も航海術について勉強しようかな。海に出る者としての必須条件だよな。
…………あれ、いつの間にか寝ちゃってたみたいだ。窓から夕日が差し込んできているのを確認しつつ、時計へと目をやる。時計の針は午後5時を指している。1時間くらいは寝たのだろうか。
結構寝ちゃったな。そろそろ夕食の時間か。食堂……に、行くのは面倒だな。
――プルプルプル…プルプル、ガチャ
「もしもし」
『ジェイデン様、本日のお夕食はどこでとられますか?』
「いや、部屋で食べる」
『わかりました。今お持ちします』
電伝虫の受話器を置いて、俺はため息をつく。今日はあのクソ王子様のせいで余計な時間食った。何かを命じられるならまだしも、突発的な思い付きで行動されては困る。
コンコンと扉を叩く音がする。返事をすると、使用人が食事を持って入ってきた。今日のメニューはパンとスープと肉料理と野菜サラダとデザートといつものコーヒーだ。俺は黙々と食べ進めながら本を読む。行儀が悪いかもしれないがこの部屋には俺だけなので別にいいだろう。食べ終えたことを使用人に報せて食器を下げてもらう。
明日は朝からトレーニングの日だ。もう寝ておこう。俺はベッドに潜り込んで目をつむった。