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第4話 不気味な笑み
俺は鼻で笑い、わざとらしく肩をすくめてみせた。
「宗教勧誘の類か? 決戦の後で弱ってる奴を狙うなんて、趣味が悪いな」
自分でも分かるほど声は乾いていたが、引く気はなかった。
目の前の男が何者であれ、これ以上踏み込ませるわけにはいかない。
男は困ったように眉を下げ、それでいてどこか楽しそうに口元を歪める。
「酷い言いようだなあ。でもさ、君、顔に出てるよ? “気になって仕方がない”って」
軽い口調。
だが目だけが、まったく揺れていない。
「……そう扱われるって、どういう意味だ」
気づけば、俺は問い返していた。
男は小さく笑うと、本棚にもたれたまま視線を天井へ向ける。
「ねえ、神がいるって話、聞いたことあるだろ?」
「信じてないね」
即答だった。
「うん、だろうね。そういう顔してる」
くつり、と喉を鳴らす。
「でもねえ、いるよ。神様は。少なくとも、この世界を“書いてる”存在はいる」
書いている。
その言葉が、妙に引っかかった。
「どうせ君、運命ってのも信じてなさそうだね。でもその運命とやらもさ、神様に“見られてる”どころか、最初から“決められてる”んだよ」
「……ますます宗教臭いな」
吐き捨てる。だが、不思議と耳は閉じられなかった。
男は楽しそうに指を一本立てる。
「主人公候補」
ぽつりと落とされたその単語に、胸がわずかに波立つ。
「……何だそれは」
「神様はね、物語を面白くするために“候補”をいくつか選ぶんだ。生まれた瞬間にね。才能、素質、運の流れ。全部、ちょっとだけ上乗せしておく。強い力も、巡り合う仲間も、支えてくれるヒロインも、“用意”しておくのさ」
男は俺の積み上げた英雄譚を指でなぞる。
「そして困難を与える。喪失も与える。絶望も与える。だが決して折れない程度に。成長する分だけ。観客が盛り上がる分だけ」
観客。
その言葉が、胃の奥を鈍く刺す。
「そうやって育てられた候補の中から、一人だけが最後に“主人公”になる。残りは……まあ、物語を彩るための存在さ」
淡々としている。
冗談を言っているような口調なのに、内容だけが妙に具体的で、現実味を帯びている。
理解できるはずがない。
荒唐無稽で、歪んでいて、妄想じみている。
なのに。
なぜか、すらすらと頭に入ってくる。
決戦の光景が脳裏に蘇る。
仲間の死。勇者の覚醒。歓声。勝利。
あまりにも、出来すぎていた。
「……信じられないな」
やっとそれだけ絞り出す。
男は肩をすくめた。
「だろうね。でもさ」
ゆっくりと、こちらを見下ろす。
「君は薄々気づいてる。自分が“候補”じゃなかったことに」
心臓が一瞬、止まった気がした。
「信じられないなら——会わせてあげようか?」
男は、にやりと笑う。
その笑みは、今までで一番、不気味だった。
「神様に」
図書館の空気が、確かに震えた