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まなこ〜友
117
#ますしき
T
5,800
翌朝、私達は届いたばかりのベッドを一緒に組み立てた。寝室の壁にくっつけその中央に置かれた広めのダブルベッドを見て、二人で思わず感嘆の声を漏らす。
せっかくだからと、どちらからともなくふかふかのマットレスへ体を投げ出し、当然、寝心地は最高だった。
「新品ふかふかのベッド最高すぎる⋯」
「広いの悪くないな」
枕に顔を埋めたまま横を向くと、すぐ近くで雅もこちらを見ており、至近距離で視線が交わる。
シーツを掴んでいた私の手を、雅が大きな手でそっと握ってきて、不意の感覚に思わず少し身体が跳ねた。
それから優しく微笑んできて「初めてだな、同棲は」と呟くような小さな声で口にした。
交際していた頃、互いの部屋を行き来することはあっても、生活を共にしたことはなかった。
五年前に一度は終わったはずの恋が再び繋がり、同棲という形まで進むなんて思ってもいなかった。
人生、本当に何が起こるか分からない。
「……そうね」
ようやくそれだけ答えると、私の手を握っていた雅の指先が、今度は頬へと移る。
さっきまでの穏やかな笑みが、ふっと消え、真剣な表情をしている。不意に出る真剣な表情に、こうしてときめかされてしまうわけで心臓に悪い。
逸らせない視線のまま見つめ合っていると、雅はわずかに身を乗り出し、私の頬に触れるだけの軽いキスを落とした。
予想外の柔らかな愛撫に、体の体温が上がる。
呆然とする私を置いて、雅は満足そうにふっと口角を上げると、私の頭を一度だけ撫でてからベッドを降りた。
不意に見せる奴の、私を好きだという視線に時々耐えられなくて、顔に熱を籠らせたまま雅から視線を逸らした。
奴にとっては日常の些細な仕草なのかもしれないけれど、そんな一つひとつに振り回される私は、もはや重症なのかもしれない。
引っ越し作業もようやく一段落した週末。私はいつものようにバーのカウンターに座っていた。
今夜の雅はカウンターの外で客との談笑に忙しく、代わりに玲くんが私の対応をしてくれていた。
「同棲どう?」
「うーん、最近頻繁に家に雅がいたからあまり何も変わらないんだけどね。自分の家に男性の物があるの変だなって思うくらい」
「うまくやられたよね夏帆ちゃん」
玲くんに軽く笑われて、私は意味が理解できず首を傾げた。
「どういう意味?」
「雅のあれ、わざとでしょ。家に上がり込んで同棲に持ち込んだの」
「……いや、さすがにそれは……」
ないでしょと否定しようとして、言葉が詰まった。思い返せば、奴はいつだって”ついで”という顔をして、どんどんと私の生活の中に侵食してきた。
そのままじわじわと包囲網を狭められ、気づいた時には囲まれている。
そんな雅のやり方を想像して、背筋に冷たいものが走った。
「……別れるなら今よね。まだ間に合う?」
「いや、手遅れなんじゃない?」
「玲くんってば、面白い冗談……」
「全然冗談言ったつもりないけど」
彼はそれ以上相手にしてくれず、背を向けて棚にボトルを戻した。
今さら別れたいわけじゃないけれど、どうしてあんな男に捕まってしまったのか。再会したあの日から、あいつはこうなることを計算していたとでもいうのだろうか。
いつの間にか客を見送ってきた雅が、背後から近づいてきた。私の隣に止まると、私の手元にあるグラスを覗き込んでくる。
「何飲んでんの?」
「今日はカルーアミルク、飲む?」
「甘いじゃん。いいわ」
「わがままね」
「奢って夏帆」
「図々しい!」
思わず声を上げると、それを見ていた玲くんが肩を揺らして笑い出す。雅が顔を顰め、玲くんを見ていた。
「何笑ってんの。きもいな」
「元々仲良かったけど、最近は仲いいだけじゃなくて息までぴったりだなと思って」
「何言ってんの玲くん」
「ただの感想」
言っている意味が分からず、私は雅と顔を見合わせる。お互いに一秒ほど首を傾げた後、まるで鏡合わせのようなタイミングで「これと?」と相手を指差していた。
玲くんが「そういうとこね」と言いながらグラスを磨き始めていた。
別に、雅と息ぴったりだなんて言われても少しも嬉しくない。
コメント
1件
同棲始まったばかりの甘い空気がたまらないですね…!ベッドの上で視線が絡んで、雅が頬にキスを落とすシーン、心臓がきゅっとなりました。玲くんの「うまくやられたよね」って言葉で、夏帆の「気づいたら囲まれてた」感がより浮き彫りになって、クズっぽい雅の戦略的な溺愛がじわじわ刺さります。二人の自然な掛け合いも好きです。