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篠原愛紀
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今日一日
あまりに唐突な出来事の連続
あまりに唐突な社長の告白
台風により帰れない災厄
訪れた社長と二人きりの一夜
吉日なのか
厄日なのか
頭の理解が追い付かず
宙を眺め
必死の理解に努める
「……」
「大丈夫ですか?私、薄気味悪いですか?」
「……え?」
唖然とする私
突然の問いかけに
我に返る
「え、あ、いや……というか……本当に本当の話なんですか?」
「ちょっと理解が追い付かなくて……」
「私が急に創作ファンタジーを語り出したと思いましたか?」
真顔で
真っ直ぐに
私を見つめる社長
とてもふざけている様には見えなかった
というか
この状況下で
作り話を始める方が不自然なのは明白だ
「いえ、そんな訳ないですよね。すみません……」
「いいんです、予想は出来ていましたから。そんな反応になりますよね」
「なので……私は1/4、クウォーターにあたります」
「——人間と狼との」
「とは言え、人の遺伝子が優位なので99%人間ですがどこかDNAの奥深くでは狼の遺伝子も継いでいる気がします」
断続的に
連続する
あまりに衝撃的な
社長の出生の秘密の告白
もう私の頭はいっぱいいっぱいだった
今日は
災害から始まり
災難の連続
そこから
予想外の展開の連続
もう既に深夜過ぎ
普段なら寝ている時間だ
頭が回らず
脳の理解が追い付かない
「で、ここからが本題なのですが——」
(ええええー……序章だったの?)
私の脳は
既に容量をゆうに超え
混乱をきたしていた
「まあかなり突飛な話に聞こえたと思いますが、私自身あまり実感はなくて」
「というのも、私が物心つく頃には既に祖母は他界してましたから」
「両親より伝え聞いているものが全てなので」
「どこか他人事というか、話を聞いただけの人と大差ありません」
長い一日から来る疲労
身体の気怠さと
社長の腕に抱かれる脳内麻薬で
どこか朧気だった私
それらが
一気に吹き飛び
一気に目が覚めた
社長の父親は
一代で大富豪へと上り詰めた
何のコネも皆無の
片田舎の
一村民だった家系から
相当優秀な実力者だったのだろう
社長自身は
一御曹司として
一人間として
ごく普通に育ったようだ
御曹司が普通かはさておき
だが
日本で言うところの
高校生の時分に
転機が訪れる
社長は単身日本へ移住し
日本での生活を始める
卒業後はグループ企業の役員として勤めるも
居住も勤務も日本に留まり
そして
此度の会社の買収に至る
そして
買収した弊社の
CEOに名を連ねる事となる——
「——と言うのが私のこれまでです」
(なるほど……)
それは
傍目には分からない
想像すらつかない
長く
濃い
壮大な半生だっただろう
だが……
ただ……
ここまで話を聞いて
今一つ解せないのは
この話の要点は何だったのだろう
この話の終着地は何処なのだろう
ただの
一族と生い立ちの詳細と
自己紹介なのだろうか?
確かに壮絶な生い立ちだ
普通とは掛け離れた
奇特な生い立ちなのは間違いない
では
何故それを私に告げたのだろう?
何故それを今話したのだろう?
奇々怪々な話に
驚きに終始していたが
冷静に
俯瞰して
よくよく考えると
疑問が多々残る
そんなモヤモヤした気持ちを抱え
唖然とした顔で
宙を眺める私
社長は
私の頭を優しく撫でると
抱いていた腕を解き
私の両肩に手を置き
近距離で私を見つめる
あまりの気恥ずかしさに
目を背けようとするも
その社長の
真っ直ぐで
真剣で
真摯な眼差しに
釘付けになり
蛇に睨まれた蛙のように
目を逸らす事が出来ない
極度の緊張の再来
再び高鳴る鼓動
続く停電
依然として室内は漆黒の闇
徐々に慣れて来た目が
朧気ながら
社長の顔をしっかりと捉える
このまま
しばし時が止まり
そのまま
しばしの沈黙
緊張が極限を迎える
沸騰し沸き立つ血液
脈打つ心臓が
今にも飛び出そう
私は
社長の次の言葉が
この話の終着地であると
直感的に確信した
いや、
この話の終着地というより
もっと壮大な何か
私の
人生の
運命の
終着地
それがこの話の答えだと
そして
それが
私のDNAに刻まれたさだめだと
感覚的に確信した
社長から目が離せない
社長の次の言葉から心が逸らせない
社長の口元が
動く——
「全ては瑠奈に会うために——」