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第二章 ──少女の同行
第一の塔が崩れ落ちたあと、世界は少しずつ軋み始めていた。
森の木々は枯れかけ、川は濁り、空は灰色に曇る。
それでもルカは一歩も立ち止まらず、第二の塔を目指して歩き続ける。
「……これが均衡のほころび。実に愉快だ」
彼女は空を仰ぎ、妖しい笑みを浮かべた。
隣を歩く魔生物は何も言わず、ただ彼女の影を追いかける。
そのときだった。
道端の木陰から、小さな影が飛び出した。
「待ってっ!」
甲高い声に、ルカは即座に魔力を練る。
だが現れたのは、まだ十代半ばほどの人間の少女だった。
肩までの茶髪を結い、粗末な布服を着ている。
その大きな瞳は、まっすぐにルカを見つめていた。
「あなたが……魔女ルカ、でしょ?」
「……誰だ?」
ルカは眉をひそめる。
「人間が私の名を呼ぶとは、随分と命知らずだな」
少女は一歩も引かず、むしろ胸を張った。
「わ、私……キララっていいます! あなたの旅に、ついて行かせてください!」
ルカは一瞬、ぽかんとした後、大笑いした。
「ははっ……人間が? この私と共に? 冗談も大概にしろ」
だがキララは必死に言葉を続ける。
「だって、村の人たちはみんな怯えて逃げるだけで……でも私は見たんです! 第一の塔が崩れるところを! あんなすごい力、私も……その隣で見ていたいんです!」
その無垢な眼差しに、ルカは一瞬だけ言葉を失う。
だがすぐに冷笑を浮かべた。
「……愚かだな。私に近づけば、お前も人間たちにとって“裏切り者”になる。命の保証などないぞ?」
「構いません!」
キララは即答した。
「みんなに笑われても、軽蔑されても……私は、私の信じるものを選びたい!」
その言葉に、ルカはふと横の魔生物へ視線を送った。
彼は無言のまま、ただ少女を見つめている。
その瞳に映る光は、いつもの虚無ではなく、どこか温かさを帯びていた。
「……チッ」
ルカは舌打ちし、鬱陶しげに顔を背けた。
「勝手にしろ。ただし……私の邪魔をすれば、真っ先に殺す」
「……!」
キララの顔がぱっと輝く。
「ありがとうございます! がんばります!」
こうして三人の旅が始まった。
キララは無邪気に話しかけ、魔生物の無口さにも屈せず笑顔を向け続ける。
ルカは苛立ちを隠そうともしないが、それでも少女を突き放しはしなかった。