カッツェが13歳になった今も孤児院にいる――
当然よね。
原因となるシスター・ミレの虐待がないんだもん。
12歳になったら孤児院を飛び出すんじゃないかってカッツェを見てきたんだけど、そんな素振りなどまったくない。むしろめっちゃめちゃシスターを慕っている。
あいかわらずシスターのスカートめくりはしてたけど……
「今日もこれからユーヤさんに鍛えてもらうんだ!」
「そうなんだ……」
まあ、ユーヤさんがシスター・ミレに惚れてるのはカッツェにも分かっているので、心証を悪くしない為にもシスターのスカートには手を出さなくなったけど。
強さに憧れてユーヤさんに引っ付いて剣の訓練をするカッツェとしては、剣を教えてもらえなくなるのはたまんないもんね。
「いつか俺もユーヤさんみたく強くなるんだ」
そして、ゲームでは虐待により道を踏み外し最強の暗殺者となって殺伐とした陰キャイケメンになる予定の少年は、いつしか日の下で元気に剣を振り回す陽キャイケメンになっておりましたとさ。
「ユーヤさんすげぇよなぁ。シエラもそう思うだろ」
「う、うん……」
更に3年間も傍で観察していたら、いつの間にかシスターとユーヤさんがいない時には私の面倒をみてくれる気のいい兄ちゃんになっていたの。今では将来どこか翳のある暗殺者になる面影など微塵もございません。
「強くなったら俺がシエラも守ってやるからな!」
「ほ、ほんと?」
ニカッと笑うカッツェに思わず私の顔が赤くなる。
中身大人が13歳の子供相手にって思わないでね。
だってカッコいいんだもん。
耳まで熱いから私の顔っていま真っ赤になってるかも。
「ああ、任せろ!」
「うん!」
私は嬉しくなって声が弾んでしまう。
そうなのだ。
この3年間ずっとカッツェを近くで観察してしょっちゅう一緒にいたせいか、私はどうやら彼を好きになってしまったようなのだ。
「よーし、今日こそユーヤさんから一本とるぞぉ!」
「カッツェにぃ頑張って」
「おう!」
私の頭に手を乗せるカッツェに複雑な気持ちが湧いてくる。
これってやっぱり妹扱いよね?
13歳の男の子から見たら10歳の女の子なんて、どんなに可愛くっても妹くらいにしか見えないか。
「シエラもシスターとの修練しっかりやれよ」
「う、うん……」
でも頑張って聖女の力が増したら、私はゲーム通り王都へ行っちゃうかもしれないんだよ?
と内心で浮かんだ言葉は口から出ることはなかった。
この世界が『乙女ゲーム』だなんて言えるわけないし、言っても信じてはくれないだろう。だから私は誰にも相談できずに悶々として過ごしているのだ。
私が聖女として大成すれば、ゲームの様なキラキラした暮らしが待っている。それに憧れがないと言えばウソになる。でも、シスターやカッツェと離れ離れになるのもイヤだ。
だから私は今一つシスターの聖女教育に身が入っていない。
シスターはそれを特に咎めるつもりはないみたいだけれど。
それにもっと切実な問題があるわ。
それは私のこのカッツェを好きだって気持ちが本物かどうかってこと。
カッツェを好きな気持ちはシエラのものなのか私のものなのか……
いえ、そもそもこの気持ちもカッツェが『攻略対象』だからかもしれない。
もしかしてゲームの矯正力なんてのがあって、この好きって気持ちもそのせいかもしれない。
だから私は自分の想いを信じることができないでいるのだ……
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