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カッツェへの想いに悩むだけで私の気持ちは一歩も進めず5年が過ぎてしまった――
私は15歳になっていたけど、未だにリアフローデンにいる。
私は消極的な方法を選んでしまったのだ。
ただ無為に過ごして何もしなかったのだ。
だから聖女として大成してない私に王都から招聘などあるはずもなかった。
私は逃げたんだ。
『乙女ゲーム』からも『ヒロイン』からも……
何故って?
それは怖かったから。
聖女となったらシスターやカッツェと離れ離れになるし、『魔王』とだって戦わないといけないかもだし……
そうやって後ろ向きな私にも、リアフローデンに残留したお陰で私にちょっとだけいい事があった。
「なあシエラ」
「なぁに?」
「お前さ、来年15歳になるだろ?」
「そうなんだよねぇ。もう孤児院を出て行かなきゃいけないんだよねぇ」
「それでさ……院を出たらさ、俺と……一緒にならないか?」
去年、カッツェから告白されたの……
やっぱ長い時間ずっと一緒にいるのが重要よね。
最初は妹みたく思っていたカッツェも、私が成長してくると次第に意識してくるようになったみたい。
この告白はすっごく嬉しかったし、もう泣きそうになったわ。
だけど……
私はカッツェを本当に好きなの?
まだ自分のカッツェを好きって気持ちが本物かどうか分からないまま。
カッツェは私を本当に好きなの?
それは彼が『攻略対象』で私が『ヒロイン』だからじゃない?
私の『好き』も、カッツェの『好き』もゲームによって、この世界によって作られた紛い物なんじゃないの?
私達のこの想いに真実はあるのかな……
それからもう一つ問題がある。
それは世界を混沌に導いている魔王の存在。
その討伐は本来なら乙女ゲームのヒロインである私の役目。
幸いリアフローデンはシスター・ミレとユーヤさんのお陰でいたって平和。
でも、他の地域は酷いありさまなのだと行商人が来て噂している。
いつまでも放置できる問題じゃないけど、ヒロインから逃げてしまった私には魔王を倒す程の力はないの。
リアフローデンでずっと暮らしたい。
シスターの温もりをずっと感じたい。
カッツェの手をずっと握っていたい。
この平和な日常を手放したくなんかない!
だけど、それは現実から目を背けているだけ。
ただただ逃げて問題を先送りにしているだけ。
そのツケは必ずやってくると言うのに……
そして遂に、私の眼前にその問題が突き付けられる出来事が起きてしまった……
「そこのピンク髪の嬢ちゃん」
突然、背後から掛けられた男性の声に振り返ると、声の主らしき青髪のでっかいおっさんと赤髪のものすっごい迫力美女さんが私を見ていた。
「黒い髪と黒い瞳の男がこの町にいるって聞いてきたんだけど知らないかしら?」
この赤髪の美人さんはフレチェリカと名乗り、青髪の巨漢ゴーガンさんと共にユーヤさんと戦場を渡り歩いた戦友だった。
「ユーヤさんを……連れ戻しにきたの?」
「魔王を倒す為にユーヤの力が必要なのよ」
フレチェリカさんの言葉が私の心をえぐった。
それは鋭い刃物を突き立てられたかのように。
この世界を揺るがす魔王。
それの討伐は、本来ならヒロインである私の役目。
だけど、それから私は逃げ出して、だからユーヤさんは召喚されて勇者の役目を背負わされてしまった。
目を瞑り、耳を塞ぎ、自分の殻の中に閉じ篭り、どんなに現実から逃避しても、その事実は決して変わる筈もないのに……
その後、フレチェリカさん達と再会したユーヤさんは魔王を倒しに旅に出ると決めたみたい。
だから私はユーヤさんに謝らないといけない――