ワタシの天使
「ざまぁww」
「きったねぇーww」
狭い教室の中、至る所からパシャパシャとシャッター音が鳴り響く。そのカメラはどれも醜い私を写した。バケツの水を被り、ゴミを散らされ、さらには腹を殴られ、机に全身を打つ。私は何も言い返せずに、青あざだらけの自身の足を見つめた。私を見下ろすいくつもの影は、スマホをしまうと、
「んじゃ、片付けよろしくー」
と言って去っていってしまった。痛む体を我慢しながらも、よろよろと立ち上がり、あたりを見回した。机や椅子は乱れ、地面には水溜まりができている。ロッカーに近づき、その場で立ち止まる。
悔しかった。憎かった。殺したかった。私の平和な暮らしを返して欲しい。
中学の終わりまでは順調だった。決して目立つ存在ではなかったけれど、ナニかの標的にされるわけでもなく、特に嫌と思うこともなかったので安心していた。けれど、高校に入ってから、私の変われるかもしれないと言う期待は一瞬で裏切られた。見た目や顔立ち、存在が気に入らないと言われ、日々殴られ、蹴られた。家族に相談しても、まともに考えてくれない。
「その内やらなくなる。」
の一点縛り。勇気を出したのに、それをも踏み潰されたのだ。家でも生きがいを感じなくなったころ、私は感情を忘れた。
笑うってどう言うこと?
泣くにはどうすればいいの?
わからない。わからない。わからない。
もう消えよう。私はもう、この世にいらないんだ。
そうして今は高校二年。長い長い月日が経って、やっと二年生。そうして今に至る。いじめも家庭も何も変わらない。
思い出すと、切なくなるな。まぁ、涙なんてものは出ないんだけど。雑巾とバケツを手に取り、床を拭いて、散らばったゴミを箒ではいた。机を戻してから、私は一息ついた。窓を開けて、オレンジと紫に染まった空を見つめる。色んな建物がキラキラと光っていた。
(きれい。)
そこで改めて、自分がびしょぬれなのに気がついた。
(寒い)
両手を擦り合わせた。風に当たって更に寒い。明日までには乾くかな、なんて考えつつ、ぼーっと夕空を眺めた。
(ころしたい。)
ふと自分の胸にそんな言葉が浮かぶ。
(自分と同じ目に合わせてやりたい。呪いたい。あいつらの苦しむ声を聞きたい。)
まぁ、叶わない夢だけど。
視線のはじに、白いものが見えた。それはどんどんこちらに近づいてきて、気づけば私の目の前にいた。
「ぅわぁ!?」
バッと体をそらすと、その白い影はクスリと笑った。よくよく見ると、綺麗な茶色の瞳に、整った鼻筋、綺麗な唇、そして極め付けは白い長い髪。なんだ、普通の女の子。
「って、、えぇ!?」
目の前の女の子はまたクスリと笑った。
「っ、こっ、ここっ!えっ、、学校の四階!なんで!?」
慌てて女の子の足元を見ると、遠くの方に茶色の地面が見えた。
「ぅ、う、浮いてる!?」
焦る私をよそに、女の子は落ち着いた口調で言った。
「貴方、人を殺したいですね?」
「っ」
言葉を失った。死神でも見えてるんだろうか。しばらく時間が経つと、私はやっと口を開いた。
「え、えぇ。そうよ。でも、なんでそれを?」
女の子は柔らかい笑みを浮かべながら
「わたしにはなんでもお見通しです。」
と言った。
「って、ていうか貴方誰?なんで浮いてるの?幽霊?」
「ふふ。失礼ですね。私は
『天使』 ですよ。」