テラーノベル
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コート内に、ピリッとした緊張感が走る。
成瀬先輩が気を利かせて他の部員を別のコートへ誘導し、メインの1面には凌先輩と遥の二人だけが立った。
「紗南ちゃん、準備はいい? 歴史的な瞬間になるかもよ」
成瀬先輩に言われ、私は震える手でノートを開いた。
ネットを挟んで向かい合う兄弟。
優雅で無駄のないフォームの凌先輩に対し、遥は低く構え、獲物を狙う野獣のような鋭い視線を放っている。
「手加減なしだぞ、遥」
「当たり前だ。……あんたのその余裕、今日で終わりにしてやるよ」
遥のサーブから始まった。
――ドォン!
空気を切り裂くような凄まじい音。凌先輩の足元で急激に跳ね上がるツイストサーブ。
「っ……!」
凌先輩が辛うじて返すが、遥はすでにネット際まで詰め寄っていた。
鮮やかなボレー。ボールは凌先輩の逆を突き、コートの隅で弾けた。
「15-0(フィフティーン・ラブ)」
私のペンが止まる。
一年生の遥が、あの凌先輩から、たった一打でポイントを奪った。
それからの試合は、まさに意地のぶつかり合いだった。
凌先輩の精密機械のようなショットを、遥が驚異的な身体能力と執念で拾い続ける。
私は夢中でスコアを書き込んだ。でも、気づけば私の視線は、ずっと追いかけてきた凌先輩の背中よりも、泥臭く地面を蹴り、必死に食らいつく遥の横顔を追っていた。
(……なんで。どうして、目が離せないの……?)
夕日に照らされた遥の汗が、宝石みたいに飛び散る。
その必死な姿が、私の胸の奥を激しく揺さぶっていた。