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大阪の道頓堀はおとぎの国のように色とりどりの色彩ネオンに溢れている、ここはどんな趣味人も満足させる娯楽施設でいっぱいだ
そんな賑やかな道頓堀の川を見下ろすテラス席の間を、ウェイターに先導されて歩きながら桜は夢見心地だった
道頓堀のネオンが川面にキラキラと映り、まるで蛍光塗料を塗り広げた様に揺れている
この街に暮らして3年になるが、今一番人気の道頓堀沿いのお洒落なお好み焼き屋は桜にとって遠い存在だった
ガラス張りのモダンな店構え、テラス席から見える川沿いの喧騒、すべてが非日常の輝きを放っている。その証拠に、親友の奈々はこの店のお好み焼きの価格が一枚¥3000にも関わらず、いつも予約が取れないのは異常だと騒いでいたからだ
でも、ここの常連だと予約を取ってくれた桜の後ろからついて来るジンと一緒にいれば、あらゆる不可能が可能になってしまうのかもしれない・・・
桜の心は、期待と緊張でふわふわと浮かんでいた
今は案内された道頓堀川が見えるテラス席の鉄板テーブルに二人は向かい合って座り、桜がお好み焼きを焼いている
鉄板の上でジュージューと音を立てる生地、漂う香ばしい匂い、桜は手慣れた手つきでヘラを操り、生地を均等に広げていく
目の前でジンは、いつもは店員に焼いてもらっていると言う、子供のようにはしゃいだ目でその様子を見つめている
「もうすぐ焼けますよ~コツはむやみに触らない事です、じっくり弱火で火を通すんです、キャベツの水分で小麦粉がふっくらするまでね、お好み焼きは忍耐です!」
桜はヘラで生地を軽く押さえながら、笑顔でジンを見た
「すっごく良い匂いだ!待ちきれない!」
ジンは目を輝かせ、まるで初めてお好み焼きを見るかのようにワクワクしている。その無邪気な表情に、桜は思わずクスッと笑った
普段はスーツに身を包み、部下に冷静な指示を出すカリスマCEOのパク・ジンが、こんな風に無防備で可愛らしいなんて、桜の胸は温かい気持ちで満たされた
クス・・・
「お好み焼き・・・好きなんですか?」
桜は生地をひっくり返すタイミングを見計らいながら軽い口調で尋ねた、ジンは頷き、目を細めた
「初めて日本に来て驚いた食べ物がこれなんだ!韓国には甘いソースは無い!日本はよく料理に砂糖を使うね、それが僕には不思議でしかたがないんだ」
「へぇ~・・・」
桜はコクコクと頷きながら、鉄板の上で焼き色がついたお好み焼きにソースを塗り始めた
道頓堀のネオンが川面に反射し、二人のテーブルをほのかに照らす、遠くで観光客の笑い声や、屋台の呼び込みの声が響き合い、夜の大阪らしい活気が漂う
「韓国は辛い食べ物が多いですものね」
桜はソースの甘い香りに鼻をひくつかせるジンを微笑ましく見た
「多いというかそれしかないよ、甘いのはスイーツだな、甘い食事という概念は無い」
桜は目を丸くした
「え?じゃあ韓国のお好み焼きみたいなものは辛いんですか?」
「チヂミかな?でも、あれはもっとシンプルで、辛いタレにつけて食べる。日本のこういうふわっとした生地に、甘いソースをかけるなんて、最初は衝撃だったよ」
「ハイ!どうぞ!」
「いっただきまぁ~す♪」
桜は鉄板の上でお好み焼きを切り分けてジンの皿に盛り付けた、ジンはフォークでソースとマヨネーズ、それに桜がブレンドした鰹節と青のり・・・
紅ショウガ絡んだお好み焼きを口に運んだ、その瞬間、彼の目が大きく見開かれた
「うまいっっ!なんだこれ?店員が焼くよりフワフワだ」
彼は興奮気味に言い、すぐに二口目を頬張った。桜はジンの反応に満足して、ニコニコと笑って自分も一口食べた
「わぁ~!本当に美味しい!絶品ですね!高いだけありますねぇ~」
ジンが怪訝そうな顔で言う
「そう?ここ高いの?韓国の食べログではみんなお好み焼きはこの価格だよ?」
桜は笑った
「高いなんてものじゃないですよ!故郷の私が通っている小学校の横の駄菓子屋さんではお好み焼きは一枚100円、あと「10タコ」って言ってね?1個10円からタコ焼きが買えるんですよ」
「なんだそれは?その店はマフィアか?」
怪訝な顔をしたジンのリアクションにまた桜は大笑いした
道頓堀の夜風がそっと二人の間を通り抜け、ネオンのイルミネーションが桜の周りに輝き、映画の様に幻想的だ
ジンは可愛く微笑む桜の笑顔を見ながら、胸の奥で何か温かいものが広がるのを感じていた
偽装のはずなのに、この瞬間、桜と過ごす時間が本物のように思えた
川沿いの喧騒と、鉄板のジュージューという音が混ざり合い、二人の会話は途切れることなく続いた
桜はジンの話す韓国の食文化に目を輝かせ、ジンは桜の家族のエピソードに笑い、驚いた
テラス席の小さな世界は、まるで二人だけの秘密の空間のようだった
道頓堀のキラキラした光が、偽りの愛を少しずつ本物に変えていくかのように、二人の距離をそっと縮めていた
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