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澄む泉

3 - No.129 ある記者の遭遇

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2024年07月11日

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パシャッ

「……無許可な撮影は法に触るのでは?シャルロットさん」

「シグウィンさんから許可は頂いてますよ、安心してください!シグウィンさんのことはよくご存知でしょう?」

レンズを1つだけ目に被せた、腕利きの記者はそう言った。可愛らしくデコレーションされた彼女特有のレトロなカメラを、大事そうに抱きこちらをりん、と見すえる。以前はあんなに怯えていたのに、短期間でこうも人は変わるものか?

片手に紙袋を下げたリオセスリは、静かに、けれど威圧的にシャルロットへ視線を向けるが、彼女は何も気にしていないようで。フィルムがもう少しでなくなっちゃうな…だとか光の加減はこんなものか…?なんてぽつぽつと独り言を零しながら、カメラを見つめるだけだった。

「それに、今日は取材のために来たわけじゃないですから。

そう、シグウィンさんからあなたの写真を撮ってきて、とお願いされてまして。それを遂行している所存ですよ!」

再度ぱしゃっ、と音がして反射的に手を翳した。そして、あーっ、もう…と残念そうな声が届いたところで手を避けると、悲しそうにレンズを見つめる彼女がいた。折角の1枚が台無しになったからだろう。生憎、これ以上、上手く撮らせる気は無いんだが。

それにしても、と度々鳴るシャッター音を意識しながら、この厄介事の発端の彼女を頭に思い浮かべた。にこにこと笑顔を絶やさず、常に俺の事を心配してくれる良き姉…。だが、こういうところがある。好奇心が旺盛で、過保護。それがあるから彼女のことを嫌いになる、なんてことはないが、すこしばかりは不満を持つものだ。

パシャパシャと鳴り響いていた音がふと止まり、記者は大股でリオセスリの隣へと歩みを進めた。

「おや、もういいのかい?」

「もういいのって…。あなたが避けるせいでいい写真は撮れなかったんですよ!はぁ、折角新しいフィルターを買ったのに……。」

「そりゃあ面目ないな。後でメロピデ要塞から謝礼を送ろう」

「えっ、や、やめてくださいよ…!!そんなので有名になりたくないんですから!」

ぶんぶんと首と手を振りながらシャルロットは激しく否定した。まさか、あのメロピデ要塞から一出版社に謝礼が…それも、新人敏腕記者に……?それが次号のタイトルなんて、そんなのたまったもんじゃない!

そんなことを考えながらこれまでの態度を少し取り戻したシャルロットは、ずっと気になっていたことを恐る恐る隣の公爵へ、ふと尋ねた。

「それ…公爵様が使われるんですか?」

「ん?これかい?いや、俺の趣味じゃないな」

そういって右手に持っていた紙袋とは別に、左手に持っている白く小さな袋を彼は眺めた。そこから覗いたのは高級感の溢れるシルクのリボン。そして、とても小さな箱。そこに刻まれた金印には、フォンテーヌ邸の誰もが知っているような超高級宝石ブランドの羅列。イヤーカフか、はたまた指輪か。

口元に手を当てて考えていれば、彼はあまり人目を気にする素振りを見せず、その小さな箱をパッと取りだした。”Bicolor Tourmalineバイカラートルマリン”と印された高級感溢れる箱。どうやら彼は中身を見せてくれるらしい、おもむろに蓋へ手をかけた。

「……これ…」

「希少だったんだ。どうせなら今のうちに撮っておいた方がいいんじゃないか?」

「…いや…結構です」

そうか、とまるで言われるのがわかっていたかのようにリオセスリは素早く箱を閉じ、丁寧に袋へ入れ直した。

中身はやはり指輪だった。何カラットかもわからない、とても大きな宝石がついたもの。それもマリンブルーからピンクベリーへのグラデーション。それは、ご丁寧に雫型に切ってあるようで…。それを誰に渡すのか、なんて。 まあ、言わずもがな。

あの貴き最高審判官様の姿を思い浮かべながら、シャルロットは遠くを見つめていた。

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