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◇不安な夜は―――――



泣きそうになるひまりを滉星が抱きしめる。

夜にはひまりが寝るまで滉星が手を握り続けていた。


N「私が不安定になると滉星は抱きしめてくれたし、夜には私が意識を手放すその瞬間まで

手をつないでいてくれた。

滉星がそうやって寄り添ってくれることが何よりも嬉しいのに、私の気持ちはいつまでも

不安定なままだった」


ある日、滉星が仕事の付き合いで酒を飲んで帰ってきた。

ひまりがキッチンに向かい、水を持ってくる頃には滉星はすでにソファーで寝息を立てていた。



ひまり「滉星くん、お水……あ、もう寝ちゃったか……」


滉星の寝顔を見て、ひまりは「はっ」と気づく。

滉星の顔には涙の痕があった。


ひまり(滉星、泣いてる……)


N「滉星を泣くほど苦しめているのは間違いなく私。

滉星は自分は何でもないと平気そうにしながら、私が不安定になれば優しく慰めてくれるけれど、

滉星だって人間だ。

いつまで経っても落ち着かない私を見て気持ちも沈むだろうし、ストレスだって感じているだろう」


ひまり(……やり直すって決めたのは私なのに、いつまで経ってもこんな状態でごめんね……)


その翌日、昼食を済ませたあとでひまりは改まって滉星に話をした。

ひまりはつらそうな表情を浮かべている。


ひまり「……滉星くん、やっぱり私たち別れたほうがいいんじゃないかな……」


滉星は優しい表情で首を横に振った。


滉星「ひまり、そんなこと言わないでよ。

俺、ひまりと暮らせなくなったらもっとつらくなる。

今もいろいろ大変かもしれないけどさ、全然苦じゃないよ。

元はと言えば、全部俺が悪いんだから。俺がどんな思いをしようが、当然だと思ってる。

だから、ひまりは気にしないでほしい」



ひまり「……わかった。でも、約束して。私といることがつらくなったら正直に言って。

もしそうなったら、別れたほうがお互いのためだと思うから……」



滉星「うん、わかったよ。でも、俺のほうからは別れるなんてこと絶対ないから。

ひまりといられないなんて、息ができないのと一緒だから」


ひまり「うん……」


ひまりの目にじわりと涙がにじむ。



N「滉星はそれからも私のことを思いやり、謝り、根気強く気持ちを伝え続けてくれた。

……それでも、この胸の奥につけられた傷跡はいつまでも残り、まるで古傷ようにふとした瞬間に

チクリと痛むのだった」


ひまりが部屋にこもり、その外で滉星が心配そうにしている。



N「突然、滉星と話せなくなって黙りこくってしまうこともあった。

自分の殻に閉じこもり1週間以上塞ぎ込むこともあった。

だけど、どんなときでも滉星は私を受け止めてくれた。

だからこそ、私自身も前を向くことができた。

私たちはお互いに逃げることなく、努力を続けた。

一歩、また一歩……と距離を縮めながら、数か月を過ごしたのだった」




〇病院



ひまりと滉星が診察室で妊娠を告げられる。


医者「おめでとうございます」


滉星「やったっ! ひまり~、俺たちの子だぞ~! やったぁ~っ!!」


笑顔を浮かべているが、すぐに下を向いて不安そうな表情になるひまり。


N「滉星と新しい暮らしを始めて1年後、私たちは赤ちゃんを授かった。

喜びもあったけれど、それ以上に大きな不安もあった」


ひまり(……本当に産んでいいのかな……)




〇ひまりと滉星が暮らす新しい家


お腹を撫でながら、ひとり部屋で悶々とするひまり。


ひまり(滉星は嬉しいってすごく喜んでくれてる……たぶん。でも、それって本当?

心の奥では違うんじゃない? 本当に嬉しいと思ってる?

……ああ、ダメだ。またこんなことばっかり考えちゃって……)


N「妊娠中は悪阻もあって、前以上に不安定になった。

それでも滉星はずっと優しく寄り添ってくれた。

不安定になっては、今はこうやって寄り添ってくれる滉星を信じるしかないのだと自分に

言い聞かせるという繰り返しの中で日々が過ぎていった」


お腹が大きくなり、穏やかな表情を浮かべるひまり。


N「ただ、安定期に入ると赤ちゃんの成長と共に気持ちも安定し、

気づけばお腹の中の赤ちゃんに癒されている自分がいた」




〇病院


陣痛に苦しんでいるひまり。


N「そして迎えた出産の日。陣痛が長く続き、私はただただ呻いていた」


滉星「ひまり、大丈夫かっ!?」


ひまり「うううっ……滉星くん……」




N「滉星は仕事のあとで疲れていただろうに、急いで駆けつけて私が分娩室に入るまでの間、

何時間もずっと励ましながら私の腰や背中をさすってくれた。

このときの時間は私にとっても大切な時間だったと思う」


その後、分娩室に運ばれ、無事に出産を終えたひまり。


滉星「ひまり……本当によく頑張ったな。ありがとう……」


滉星の泣き顔を見ながら、ひまりは優しく微笑む。



〇ひまりと滉星が暮らす新しい家


ひまりと滉星が子育てに奮闘している。


N「初めての出産。初めての育児。初めてのことばかりで大変だけれど、

滉星は私のことも子どものことも大切にしてくれている。

今の私にとって、滉星は間違いなく大切でかけがえのない存在だ。

振り返れば長い道のりだったけれど、私は自分の人生を取り戻せたのだと思う」


◇ ◇ ◇ ◇


子どもを嬉しそうに抱き上げている滉星。

それをひまりが料理をしながらキッチンから眺めている。


「ただ……滉星のことを完全に信頼しているわけではない。

二度目があれば、今度こそ私たちはおしまい。

だから、産休が終われば私はまた復職する予定だ」


料理を続けながら、胸の奥に秘めている思いに囚われた時、

ひまりの耳に、娘をあやす夫の幸せそうな声が聞こえた。




―――― お ―――― し ―――― ま ―――― い ――――

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