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確かにずっとそこにいたのだ。自分の隣には、分からなくとも、離れていても。
「太宰くんは、ポートマフィアから抜けたよ。」
「……は?」
その後、いつも太宰が心を躍らせ名前を呼んでいた友人が亡くなり消えたと首領が教えてくれた。
「ハッ…結局俺は手前に置いてかれた犬かよ…」
一枚だけ、中也は太宰の写真を持っている。ぎゃあぎゃあと騒ぎながら家で飲んでいた時に、珍しく太宰も酔った様子で、ふと、この顔を写真に納めておこうと思ったのだ。無駄に端正で喋れば自身を苛立たせる此奴の顔を。
その写真の中に写る太宰は、自分にしか見せない優しい顔で写っていた。…それも自分の勘違いだったのかもしれないが。
その時撮った小さな写真を、中也は大切に無くさないように持ち歩いていた。抗争の中、無くしそうになった時は何故だか分からないが本当に焦った。
その写真に中也は口付けをした。こんな事をしたって、写真の中の太宰の表情は変わりはしない。
「ハッ…莫迦みてェだ、俺だけ、こんな気持ちにさ
せて出て行くなんて、酷い奴だったよ…本当にな…」
こんな事したって、彼奴はもう帰ってこない。その端正な顔から吐き出される罵倒に罵倒で返す事も、抗争の完璧な作戦書で踊る事も、自分の奥の寂しさを埋めてくれる事も、情事の後の柔らかな優しい表情を見る事も、朝、起きた時の確かに動いている心臓から、彼奴の暖かみを感じ取る事も、ぜんぶ、出来なくなったのだ。
そう理解してしまった途端、涙が零れ落ちていた。確かに、自分の目から。
「ア”ァー……らしくもねぇ」
「折角手前が消えたんだ。清々する。それで、良いだろうが…」
その日は帰ってから自分の持っている葡萄酒の中で1番高価なペトリュスを出した。
帰り際、紅葉の姐さんに酷く心配されたが、「大丈夫ですよ、あんな奴、居なくなって清々します」と、なんとか笑う事が出来た。
「祝ってやるよ、太宰。そして二度と現れんな。」
独りしか居ないこの部屋に、グラスを当てる音が響いた。
そこで、自分の相棒でもあり、恋人でもあった、今まで自分の中にある何かを埋めてくれた太宰治という青年に、別れを告げた。
ーーーーーーはずだった。
「やぁ中也」
「………何で居る」
今日は徹夜明けで漸くセーフハウスに帰り酒を早く飲もうと上機嫌で帰っていた。
それなのに、会うはずの無い相手が何故か居て、気分は直ぐに急降下した。
「此処、まだ使ってたんだねぇ。」
「…別に俺の勝手だろうが。」
「まぁ、思い出の場所でもあるしね」
その言葉に中也は目を丸くして昔より背の高くなった太宰の顔を見上げた。
「え、覚えてるよね?私たちが初めて…モゴッなにふんのふぁ」
「それ以上は喋んな…!」
太宰の言う通り、セーフハウスなんていくらでもあるし、なんなら多くなった時は全ての証拠を消した上で解約したりもしていた。
でも、この家だけは、何故か離れられなかったのだ。
理由など、己でも分かり切っているが、それを口に出したくは無い。
「てか、君ほんとに大丈夫?ブラックなとこは変わんないねー、今度森さんに文句言わなきゃ…」
とか、ブツブツ言っている太宰は放って置き、俺はもう休みたくなっていた。
帰ったら酒を飲もう、とは思ってはいたが、もうそんな気分では無い。寝たい。
「……じゃま。どけ。」
あ、ちょっなどと慌てる太宰を尻目に、俺は着替えを済ませるためにクローゼットのある部屋に向かおうとしていた。
ーーいや、着替えなくてもいいか。
明日は三連休となっているし、まぁ大丈夫だろう。と、徹夜明けで緩くなった頭で考え、取り敢えずシャツとズボンだけの寝やすい程度に脱ぎ、そのまま寝室に行こうとした。だが、その時にリビングにおそらく、何かの缶だろうか。その他つまみのようなものが置いてあったり、キッチンに酒瓶が置いてあったりするのを見て、違和感を覚えた。
俺、あんなん飲んだ記憶も無ぇぞ…あと俺が置きっぱにしねぇし…
まさか、と頭の中に嫌な予感がよぎった。
先ほどから自分の後ろにゆらゆらとくっついてくる太宰に思いっきり頭を当てながら振り返って少し痛
かったが、今はそんなこと気にしている暇はない。
「手前、まさか家の中物色して無ぇだろうな…!?」
「え、したけど…」
「……寝室入ってねえだろうな…」
「あぁ、もしかして此れ?」
と、太宰がポケットから取り出した紙のようなものをひらひら、と揺らす。
「〜〜〜!!何っで見つけれんだよ!返せ!!」
もしかしたら、今の自分の顔は酷いものかもしれない。
そんな事は気にせずに、お気に入りのものを取られた子供のように、ピョンピョン跳ねてその小さな短躯でその写真を取り返そうとした。
「はい。」
「え”っ………」
「…何さその反応は」
「普通に返してくれるとは…」
「いや、だってさぁ〜〜…」
と言いつつ、太宰は廊下に頭を抱えながらへたり込んだ。
「…どうしたんだよ」
少し心配になり、自分もしゃがみながら聞いてみた。
「………だって、」
そう言うと、太宰は少し顔を上げて、蛸のように真っ赤に染まった顔でこちらを見ながらこう言った。
「…ずうっと好きな子に、自分の写真を大切にされてたってなると、こっちだって嬉しくなっちゃうでしょ…私だって男だよ…?」
余りにも衝撃的な言葉に、少し赤くなって固まっていると、先程よりもっと赤くなり少し子供っぽい顔をした其奴が、こちらを見たかと思えば、太宰の唇がふわり、と優しく触れた。
中也はがた、と驚いたように少し後ずさる。
「、、は」
その声は本当に絞り出した様な声だった。
「私ね、結構我慢したんだよ。」
「君も連れて行きたかったけど、駄目だった。」
「まともに触れることもできなくて、ずうっと我慢してたんだから。」
ふわり、と太宰が笑う。その顔は、確かに、自分の手の中に帰ってきたすこし古びた写真にも写っている、自分にしか向けないあの顔だった。
あぁ、此奴は帰ってきたんだ。そう思うと、あの日に太宰への別れと共に閉ざしたはずの感情が、一気に漏れ出した。
「ッ……!!ばか、だざいのばかやろぉぉ…!!」
「えっ、ちょっと中也!?!?えっ、あの…泣かないで…?ごめんね…?」
えぐえぐと言いながら泣き出した中也に、太宰は優しく抱きついた。そうすると、背中に回った腕から力ないポカポカと言ったら効果音がつきそうな弱い殴りを何度も背中に打ち受けられた。
「なんっ、ひっ、なんでおれをっおいっていくんだよ、くそさば〜〜!」
「うんうん、ごめんね、大丈夫だからね、中也。」
中也は溜め込みすぎると、泣く時に幼児のようになってしまう時がある。昔もこうなった時は大変だった。
そんな事もあったな〜、とか思っていると、ふと中也がこう言った。
「もうっ、できないとおもったんだよっ」
「えっ?何を?」
「ぎゃあぎゃあ2人でさわぐのも、てめえのさくせんしょでよろこべるのも、おれの、ここ、の寂しさをいっぱいうめてくれるのも、せっくす、した後のやさし、ひッ、顔みるのも、ぜんぶ、できなっちゃったんだって、おもって、ひっ、もう、だめだとおもって、いっぱい泣いたンだよ、この、ばかぁ…ひっ、ひっ、うぅっあっ…」
「………」
「…?だざ…?」
顔を見るために肩を掴み腕を伸ばすと、太宰は顔を隠しており、隠された表情は見えず、その代わりに赤く染まった耳がちらりと黒い蓬髪から隠れ見えしていた。
「ちょっと、今顔見ないで…」
「…?、なんで、ひっ、やだ、みるっ」
「あぁもう、もっと泣かないでよ、ほら、見えるでしょ?」
「…うん、」
「だから、ほら、落ち着いて?ゆーっくり、ね、?」
「うん…、だざぃ、ソファ連れてって。」
「えっ…君のこと持てるかなぁ…」
太宰の脳裏に、昔中也を背負おうとして、腰を砕かれたあの記憶がよぎる。
「…よしっ、行くよ中也?」
「うん」
心の準備…もとい、死の覚悟はできた。
「よいっしょ…!?軽っ!?」
「君…ちゃんと食べてる…?」
昔に比べれば、重くはなっている、が、軽々と持ち上げられた。…昔は筋肉なんてなかったから、あれは私が単に力がなかっただけだったのかなぁ…昔は持ち上げようとして転けて怒られたなぁ…
そんな事考えていると、いつの間にか着いたようで寝室のベッドの隣にある小さな1人用ソファに中也を下ろした。此処は中也のお気に入りなのだ。昔よく此処で外を眺めていた事を、太宰は知っていた。
移動している間に中也は正気に戻ったのか、何とも言えないオーラを放っている。
中也はあの姿が嫌いなのだ。幼児のように、誰かに泣き縋るあの姿が。誰か、と言いつつも、あれを見せることが出来るのは太宰しかいないのだが。
リビングに行き、ココアを淹れて寝室に戻った。
「ちゅーや、はい」
「……さんきゅ…」
中也にココアを渡し、自分の分を持ちベッドに腰掛けた。
「はぁぁ、またやっちまった…」
「別にそんな気にする必要もないでしょ、寧ろ私は好きだよ?」
「はァ…?俺にとっては最悪だ、あンなもンのどこがいいんだよ…」
「だってね、あの時の中也はね、ちゃんと本音言ってくれるんだもの、にしてもすごい告白だったねぇ…」
「はァ!?!?告白じゃ無ェよ!!」
「え、じゃあ中也は私の事もう嫌いなの?」
「え”っ……いや、え、別に、そう言う事じゃ無ェ、けど…」
だんだんと気恥ずかしくなり、小声になっていく中也が、愛おしくて堪らなくなった。
「……私はね、君に初めて会った時思ったんだよ、ああ、この子は離したくないなって。だから、取られないよう、ずぅっと、近くに居たかったんだけど、それが出来なくなってからはずっと不安だった。」
「…は」
「だからね、また会えて嬉しいんだ。また、こうして、話せるだけで、この自分の中にある好きが何度も溢れそうになるんだ。もっと、もっと君の近くで、君を離さないように、ずぅっとそうしていたい。」
「私は、君を離したくないんだよ、ねぇ、ちゅうや、好きだよ、もう一度、付き合ってくれないかな。」
「!……俺だって、手前の事は、離したくないし、嫉妬だってするよ、俺だって手前の事、すき、なんだよ。」
「!ふふ、はぁ、5年間待ったかいがあったなぁ!」
「ちょ、おい」
向き合う形になっていた太宰から抱きつかれてしまった。多分、お互い顔が凄い事になっていると思う。嬉しかったのだ。
「ぜったい、中也の事は離さないからね。」
「…うん、俺だって離させる気は無ェぞ、離そうとしたら噛みついてやる。」
「わぁお怖い」
「ねぇねぇ中也」
「あ?」
「ちゅうや、わたしがいない間に此処、誰か入れたりしてないよね?」
「はぁ?、ってうお!?」
太宰に軽々と持ち上げられ、後ろのベッドに押し倒されて両手を捕まれ、身動きが取れなくなっていた。
「おい、何する気だよ」
「中也なら分かるでしょ?」
「……??」
「うーん、言い方変えよっか、私がいない間、男同士でシた?」
「はッ…?嫌、無ェけど…というか、お前以外じゃ気持ちよくない…」
「……へー」
太宰の顔が昔の悪質な嫌がらせを思い付いた時のような顔をし、中也は少し怖気づいた。
「…?な、なんだよ」
「私を煽った中也が悪いんだからね」
「はぁ!?だいたい…」
「絶対逃さないから」
「ひぅっ、!?」
急に耳元で囁かれ、自分の物とは思えない高い声が出た。
「がんばろーね、ちゅーや♡」
「ん…ゔっ…朝か…」
あの後は太宰にされる事が初めてが多すぎて、あんなに快楽に溺れた事は無かったと思う。
「……風呂入りてェ」
体がいろんな液体のせいでベタベタする。
動こうとした瞬間、腰に激痛が走る。
「い”っ!?!?」
「…ん…?中也どうしたの?だいじょーぶ?」
「……手前……よくもやってくれたなァ…?」
「んー??なんのことかなぁ?おさむちゃんわかんない♡」
聞いた瞬間寒気がする科白を吐かれ、もっと気持ち悪くなった。
「キメェ………」
「ひどーい」
「腰が、痛すぎて動けねェ…」
「あぁ、まぁそりゃそうだろーねぇ」
「そうだろーねぇじゃねぇよ原因手前だろうが」
「どっかいこうとしなくてもいーじゃん、まだぬくぬくしとこーよ♡」
「はぁ…今日が休みだから良いけどよォ…」
「うんうん良かったねぇ」
「て、めぇの、しごとは、どうし…スースー」
「んふふ、まだちゃんと寝てないんだから動いちゃだめだよ」
眠ってしまった中也に抱きつくと、「ん…だざい…」と近づいてきた。
太宰がその夕焼け色の髪を触りながら小さく言った。
「離してなんかやらないからね、もう、絶対に。」
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