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第1話:「幼馴染の背中」
小学6年生の春、さむーい通学路。私は、幼馴染の涼の少し後ろを歩いていた。彼は何か楽しげに歩きながら、小さなボールを手のひらで弾ませている。
…なにやってんの。
その無防備な後ろ姿を見るたびに、胸がぎゅっと苦しくなる。好きだなんて、とても言えない。幼馴染だからこそ、一線を越えてはいけない気がして。
「奈子、どうした?遅れてるぞー。」
突然振り返った涼が、私を見て笑った。その爽やかな笑顔に一瞬言葉を失った私は、慌てて駆け寄る。
「別に何でもないよ。涼が急いでるから!」
「急いでねーけど。お前がぼんやりしてるだけだろ。」
軽く頭をポンと叩かれ、私は小さく抗議する。
「ぼんやりしてないもん!」
…この時間最高。この時間がずっと続けばいいのになぁ。
学校に着くと、友達の小夏が私たちを迎えてくれた。
「おはよー、奈子。涼も一緒か。ほんと仲良いよね、幼馴染って。」
「そんなことないって!」私は慌てて否定する。
小夏は意地悪くニヤリと笑い、「でもさ、奈子が涼のこと見てる目、ちょっと怪しいよ?」と耳打ちしてきた。
「そ、そんなことないって!」
私は小夏の口を抑えながら、心臓が爆発しそうになるのを感じていた。
「でもいいなー。私引っ越してばっかで、幼馴染とか、いないから」
小夏の顔はとても寂しそうだった。
その日、帰り道のことだった。涼が突然、ふと真剣な顔で私に言った。
「奈子、進路のことちゃんと考えてる?」
「えっ、まあ…一応は。」
「俺、高校はバスケ強いとこに行こうと思ってる。」
涼の夢はバスケットボール選手になること。
恋愛なんか興味なさそうな顔して。涼っぽいけど。
「そっか、でもその前に中学校だよ。あんた、勉強大丈夫なの?」
あーあ。もう少し素直になれればな。涼は気づかず、またいつもの無邪気な笑顔を見せた。
「ま、そだけどさ!高校も考えたほうがいいじゃん?」
今の顔、めっちゃ良かった。
でも、彼にとって私はただの幼馴染だ。それ以上でも、それ以下でもない。
涼の背中を見送る。自分の気持ちを伝える日は、多分遠い。
今の間は嫌われないようにしよう。
これが、一番だ。