「お疲れ様でーす」
ガチャリとドアを開けながら風紀委員室へ入ると、委員長のデスクを二、三人が取り囲んでいた。
「やっと来たか、ちょっとゆっきーこれ見てや」
こいこい、とチーノに手招きされ近寄る。
「お疲れ様です雪乃先輩!こんなに早く会えるなんて感激です!」
「お疲れルカくん…と、あれ、ショッピくん?」
チーノの横に佇んでいたのは、ゴーグルの付いた紫に白のラインが入ったヘルメットを被る男子生徒、ショッピだった。
「どーも、ゆっきー」
「久しぶり〜なんでこんな所にいるの?」
「ショッピは情報提供者や」
チーノの横槍に雪乃は首を傾げる。
「実はついさっき、ショッピくんからこの写真を提出されたんだ」
冷静に話すのは委員長のデスクに座る瀬戸。
その手には何枚かの写真が握られていた。
なになに、と写真を覗くと、パッと見1人の男子生徒が数人の先輩らに囲まれ虐められている様子に見える。
「…この写真、どこから」
「暇やったんで学校の防犯カメラハッキングしてたらそれが映りまして」
「現像して俺のとこに持ってきてくれたんや」
……相変わらず怖い遊びしてるなこの子。
雪乃はそんな感想を胸に秘めつつ、その写真たちを手に取る。
「つまり、どこかで虐めが起こってると?」
「そうだね、けどそれだけじゃない」
瀬戸が、最後の一枚を雪乃に手渡す。
その写真を見て雪乃は目を丸くした。
…見えない“何か”が、彼らを攻撃していた。
「…これは」
「もしかしたら連続して起こっている例の事件と関わりがあるかもしれない」
「この映像はいつのもの?」
「今日の昼過ぎっすね。正確には…2時ごろやな」
その時間と写真を見て、雪乃は何か引っ掛かった。
この男子生徒、見たことあるような。
「もしかしたら事件が起こる前触れかもしれないので、僕らは今から警備に当たります。この生徒たちにも話を聞かないと」
「うん。そっちは佐々木くんに任せるよ。僕らも情報聴取や警備に当たろう」
「情報提供ありがとうなショッピ」
「まぁ、報酬は後でいただくんで」
「ちゃっかりしとるわこいつ」
そんなやり取りを聞きつつ、
「私も一旦教室に戻ってから動きます」と一言残し、雪乃は急いで教室に戻った。
「美希、ごめん……あれ、いない」
美希に一言断りを入れなければと急いで教室に戻ってきたのだが、美希の姿はなかった。
どこにいったんだろう。
少し開いたままの窓から冷たい風が入り込む。
黒いリボンのヘアクリップで留めた赤髪が揺れる。
歩いてさっきまで美希が居たであろう窓際の机に近付く。風でパラパラと教科書が捲れる。
「美希…?」
その時、隣にいたエーフィが突然窓の外を見た。
つられて雪乃も窓の外を見る。
「………!!!」
寒空の下の校庭の真ん中、彼女はいた。
しかし挙動がおかしい。
何やら1人の男子生徒を追い詰めているような、異様な光景。
彼女…美希の周りにフワリと風が巻き起こり、人間の力では到底持ち上げることの出来ない大きさの石や木を宙に舞わせる。
まるでサイコパワーでも使っているかのように。
巻き上げられた石や木は、怯えるその男子生徒に向かって…投げつけられた。
「美希」
雪乃はガッと窓を開け、窓枠に足を掛けた。
その瞬間、雪乃の姿が消えた。
「やめて…殺さないで…、う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
校庭の真ん中で腰を抜かし、目の前に迫る大きな影に恐怖し叫ぶ男子生徒。
ぶつかると思われたそれらは、いつまで経っても自分の身体に当たらない。
恐る恐る目を開けた男子生徒の前に、黒いマフラーを巻いた少女がその綺麗な赤髪を靡かせ立ちはだかる。
投げつけられた木や石たちは、軌道を反れ辺りに落ちる。
「……美希、どうしたの」
赤髪の少女、雪乃は目の前の友人に語りかける。
長い黒髪を逆立て生気のない瞳をこちらに向ける友人に、雪乃は眉を歪める。
「美希、教室に戻ろう。勉強教えてくれる約束でしょ?」
しかし返答はない。その代わり彼女の口から放たれた言葉は、この世のものとは思えない呪文のような言葉の羅列。
そして、
「*…ヨ、コセ…ソレ、ヨコセ…*」
はっきりと聞こえてきた、意思のある言葉。
雪乃は確信した。
“何か”に取り憑かれている、と。
「おーい!大丈夫かい草凪さん!」
少し遠くから瀬戸の声がする。
そっちを見ると瀬戸の他にチーノやショッピ、佐々木がこちらに向かっていた。
それに気付いた美希は、右手をグッと上げ再びサイコパワーを使う。
校庭にあった花壇がフワッと宙に舞い、瀬戸たちへと物凄いスピードで投げつけられる。
しかしそれは再び、“壁”に阻まれる。
エーフィのリフレクターだ。
「気を付けてみんな、油断すると死ぬよ」
雪乃の冷静な一言にみんなの足が止まる。
「危険です、逃げてください雪乃先輩!」
「あかん、力が強大すぎる…逃げろゆっきー!」
「草凪さん、これはもしかしたらポケモンの仕業かもしれない!危険だ!」
みんなの言葉に、雪乃はにこりと微笑む。
「逃げないよ、だって友達だもん」
コメント
7件
初めまして!凄く素敵です!