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「違う」
リオは即座に答えて目を逸らす。
目を合わせていたら動揺を悟られてしまいそうだ。手を固く握りしめていないと震えてしまいそうだ。
金髪に赤い目だって?一族の中に金髪の人は何人もいた。赤い目の人も何人もいた。ただ金髪で赤い目は、リオともう一人。デックだけだ。だからその人はデックだ。七年前に突如として消えたデック。生きていたんだ…。消えてからどこで何をしていた?そして今はどこにいる?
「ふーん」と呟いて、ケリーが立ちあがる。そして机を回ってリオの隣に立ち、顔を寄せてきた。
「まあ認めたくないなら、それでもいいけど。俺はさ、初めて君を見た時から、君も不思議な力を使えるんじゃないかと思ってワクワクしてる。ギデオン様は何も|仰《おっしゃ》らないけど、力があるから直接雇われたんだろ?」
「違う。俺が一人で旅をしていて金に困っていたから、助けてくれただけだ」
「へぇ、そうなのか」
ケリーが目を伏せたリオの肩に手を置く。
どういう顔をしているのか見えないけど、笑った気配がした。
「この部屋はさ、城の最上階にあるんだよ。知ってた?ここに来るまでに、かなり階段を|上《のぼ》っただろ?取り調べる必要がある要注意人物が、逃げないように。隣の部屋には見張り。窓の下は敷き詰められた石畳。絶対に逃げられない。まあ俺は、逃げたりしないけど」
「さっきの話…」
「なに?」
前を見つめたまま、リオが口を開く。
「俺が不思議な力を使うんじゃないかってこと、ギデオンに話さないのかよ」
「話さないよ。君は認めてくれないし。ギデオン様が知らないなら好都合だ。だって世界に一人か二人しかいなさそうな貴重な人間だよ?そんな貴重な人間、誰にも渡さない。俺が利用する」
「…最低だな」
「そう?利用すれば、この領地だけでなく国も手に入れられると思わないか?」
「思わねぇ。てか、もし俺が不思議な力を使えるとしても、あんたなんかに一切協力しない」
「うん、リオはそう言うと思っていた。だからリオを|拐《さら》おうと思ってる」
「は?話聞いてなかったのかよ。俺はあんたが見た人のことは知らないし、不思議な力も使えない。拐っても無意味だ」
「違うな。彼と君は深く関係がある」
リオの肩に乗っていたケリーの手が、リオの首に触れる。
直後にリオは肩を震わせた。
なに…チクッとした…?
リオがゆっくりと横を向き、ケリーを見上げる。
ケリーは、目を細めてリオを見ていた。
「なに…?」
「痛かった?なるべく痛くないように刺したんだけど。ほらこれ」
ケリーの指には細い針が挟まれている。
「針の先に薬が塗られている。でも大丈夫だよ。ただの眠り薬だから。少しだけ催眠薬も入ってるけど。今から俺が言うことをよく聞けよ。この薬は半日効く。いいか、月が中天に昇った時に目を覚ませ。そうしたらこっそりと部屋を抜け出して、城の東の門まで来るんだ。わかったな?」
リオは、ぼんやりとケリーを見る。
ケリーの言葉を頭の中で|反芻《はんすう》しながら、俺は門には行かない、というか行けないよと思う。
だって隣で眠るギデオンが気づく。俺と寝るようになって不眠症が治ったと喜んでるけど、不審な動きがあれば気づいて起きる。だからきっと、ギデオンが止めてくれる。
「約束だ」と言うケリーの声を聞きながら、リオは机に顔を伏せて、ゆっくりと目を閉じた。