/午後5時26分.ーー覆間高等学校 ?????/
日が沈み、辺りは赤から紫に…そして夜に変貌していく。
あの綺麗なステンドグラスも、光を失い、眠りにつく。
町中に点々と立つ電柱の上で、大量のカラスが騒がしく鳴いている。
その声で、歩は図書室に来た本来の目的を思い出す。
「あ、そうだ今時間……!」
キョロキョロ辺りを見回すと、数字が枠から飛び出した、変な時計があった。
目を細めながら確認すると、いつもなら既に下校中の時間帯であることがわかった。
(うわ、やばい…早く帰らないと!)
青年を背にし、歩は急いでリュックサックを取りに行く。
『急に、どうしたんだい?』
青年は、不思議そうに歩を頭の上から覗き込んで聞いた。
「うおっ、…えーと、今日はお母さんの帰りが遅くなるから、家事をやっておかないとなんだ。せっかくの早帰りなのに、のんびりしちゃったから…ああいや、君のせいって言いたい訳ではなくって…」
『あはは、別にそんなこと気にしてないよ 』
青年は笑いながら歩のリュックサックを魔法で引き寄せる。
そして、歩のリュックを背負った。
「あ、僕の…」
『ねえ、僕も君について行っていい?』
「…え?何で?」
『…ダメかい?』
青年は、寂しそうな顔をしながら歩に質問返しをした。
歩がこうすれば言い返せなくなる事を見抜いているのだろうか。
「あ、いや、別にダメではないけど…その、君、ツノとか、どうするのさ」
『そういうことなら…見てて』
「…なんか光り始め━━━」
(うわっなにコレ!?眩しいッ!?)
青年がキラキラと輝き始め、そのあまりにも眩しい光に、歩は目を閉じた。
目を開けたとき、目の前に立っていたのは…人間だった。
「…え、誰。…え?」
『やだなぁ、人間に変身しただけだよ。この姿なら、違和感ないだろう?』
「まあ、確かにね……これも魔法なのかな…魔法って凄いな…」
青年のブロンドの髪は黒く染まり、ツノや翼なんて元々無かったかのように思えるほど、綺麗さっぱり無くなっている。
青年は、唖然としている歩を追い越して、ドアに手をかける。
『おーい、何してるんだ?早く行こう』
「え、あ、待ってよ!あとリュック返して!」
歩は、この部屋の出口に向かって、走って行った。
「…何とか、学校から出れた」
『相変わらずめんどくさい構造してるよなぁ』
歩と青年は、学校の近くにある商店街を歩いていた。
たまたま先生などに見つかることなく学校を出ることができたようだ。
…本当にたまたまなのかはわからないが。
『そういえば、君の名前を聞いてなかったな』
「…あ、そういえばそうだね…僕は、蘭川歩って言うんだ」
『歩かぁ…いい名前だね。僕は、崎魔 興って言うんだ。まあ、改めて…よろしくね』
「うん。よろしくね」
やっとお互いの名前がわかった所で、歩はとある店の前で足を止めた。
コロッケやカツなど、惣菜のいい匂いが漂っている。
「今日は時間ないし、ここでお惣菜買っていこうかな」
『へえ…どれも美味しそうだね。この丸い奴はなんだい?』
「あ、それはね、このお店の看板商品の豆腐チーズナゲットだよ。ふわふわした食感が堪らないんだ」
『ふーん。じゃあ、一パック買おうかな。妹も喜ぶといいな…』
「うん、絶対に気にいるよ!……って、妹いるんだ?!」
『ん?ああ。そうだよ。小学生くらいかな。僕には…ツンとした態度なんだけど、でも超可愛くて…って、なんかシスコンっぽいな今のセリフは。』
「いやいや、興が妹さんのことを大事に思ってるのが伝わってきたよ?大切に思う気持ちはいいものだよ。
『…そうだね。ありがとう。』
(素でこれが言えるって、歩は本当に優しい子なんだな…)
「ん?…あのさ、妹さんも、悪魔なの?」
『あ…いや、えっと…まあそうだな…うん、一応あいつも悪魔だな』
「?そうなんだ。改めて思うと、僕、今とんでもない体験しているなぁ」
それから、他愛もない雑談をしながらも、2人は買い物を続けた。
「よし、今日の晩御飯と明日の朝ご飯ははこんなもんでオッケーっと」
『じゃあ、これから帰るのか。あとどのくらいで着くんだ?』
「えっと………あと30分」
『…時間大丈夫か?』
「多分…でもいつもならもう家ついてる…」
『そうか…よし、ちょっとついて来て』
「わわっ、何なに?」
歩は興に連れられ、人気のない路地裏に入って行った。
商店街の騒がしさが、どんどん後ろへ遠ざかっていく。
『ここら辺でいいかな。よし、歩!僕にしがみついて!』
「え?あ、うん…」
一瞬戸惑ったが、歩は素直に従う。
『しっかり捕まっててね。あ、これ聞かないとだった。歩は何処の何丁目に住んでるの?』
「…城外町2丁目」
『わかった。それじゃあ…行くよ!』
「!?…え、何、なんか、グニャって…!」
辺りの景色が歪んでいく。
少しづつ、辺りが白い光で埋め尽くされていく。
歩は訳もわからず、目を閉じる。
景色が光で満ち溢れたその瞬間、歩達は…その場から消えた。
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